嘘つき
練習が終わって整備中のグラウンドに、ひときわ大きな笑い声が響いた。
二重奏のそれは、野球部のトラブルメーカーツートップと名高い獅子川先輩と猿野くんの声だ。
何が楽しいのか、さきほどから笑い声は、途切れることなく続いている。
「猿野くん、ちゃんとやらなくちゃダメっすよ」
今日も今日とて、年中行事と化していたらしい言い争いだかコスプレ対決だかの真っ最中だった猿野くんと獅子川先輩が、僕を振り向いた。
こつん、と笑った獅子川先輩が猿野くんを小突く。そこにとうとう鹿目先輩の怒号が飛んできて、後ろめたかった僕はほっと胸を撫で下ろした。
僕が言わなくても、鹿目先輩が、すぐに。
猿野くんはおとなしく整備を始める。もう着替えるばかりの獅子川先輩と一緒でなく、どちらかと言えば僕に近い位置で。
穏やかな風が吹く帰り道の途中、猿野くんがプチン、と脇の猫じゃらしをちぎった。
何を思ったかそれを口に咥える様子は獅子川先輩に似ていて、僕はわざと顔を逸らす。
そんな僕の行動に気付いたはずもないのに、猿野くんは振り返った。
「お前って、結構嘘つきだよな」
僕はわざと猿野くんの目を見て、
「そんなことないっすよ」
少なくとも、猿野くんには言われる筋合いはないと思う。
お家のことを聞いても、昔のことなんか聞いてみても嘘ばっかりでツッコミをいれさせられて終わってしまう。
それに比べたら、量で言えば僕のつく微々たる嘘なんて可愛い方だろう。
「ほら、嘘つき」
もう、猿野くんは振り向かない。
言葉の響きは平常で、それだけになんとでもとれそうで、僕は追いかけることも出来ずに同じ速度で歩き続けた。
僕は何もいえない。自分のしたことの卑怯さとか、矮小さとかはとっくにわかっていて、さらに性格の悪いことにそれが猿野くんにどう思われるかばかりが気にかかる。
「僕は、」
しようとした言い訳は結局、馬鹿らしすぎて音には出来なかった。
すごくすごく、馬鹿みたいな言い訳で。
振り向いた猿野くんが笑う。
「わがままなんだろ?」
僕は呆気にとられるしかなくて、足も止まってしまった。
猿野くんが、戻ってくる。
「そんなら、許してやるよ」
首に回された手は暖かくて、それに重ねながら、泣きそうに目を閉じた。