32分の1
「もったいねえよな」
「は?」
チューハイを片手に、ちょっと目の据わってしまった猿野くんが呟いた。
僕の誕生日祝いという名目の飲み会は、ちょっと前に(強制的に)お開きになりあたりには馴染みの一年生メンバーが雑魚寝をし(というか酔いつぶれ)ている。唯一片づけを手伝ってくれそうな辰羅川くんは、家に断りの電話を入れると携帯電話を持ってベランダに出たまま帰ってこなくて、僕は一人おつまみの容器のゴミや缶を片付けていた。
勿論、起きているとは言え猿野くんが手伝ってくれるはずもなく、ぼんやりと僕が動く様を眺めている。
そして、唐突に口を開いたのだ。
「もったいねえ」
言葉に、捨てようとしたおつまみの容器の中にまだ中身が残っているのかと思ったが、そうでもないらしい。
猿野くんの視線は僕が持っている、コンビニの袋で作られた即席ゴミ袋ではなく、一直線に僕に向かっている。
「何がっすか?」
僕は片付けの手を止めて、猿野くんに尋ねた。
「お前、16才になったんだろ?」
何を今更、と思うものの頷く。
「んで、オレも16才」
その言葉を前振りに猿野くんが何を言いだすつもりなのか、相変わらず僕にはさっぱり見当がつかない。ので、また黙って頷いた。
「でもさ、オレがお前と会ってまだ半年も経ってねえんだよ。お前もオレも16年も生きてんのに」
猿野くんは通り過ぎてしまった夏を見るような目で、呟いた。
「ホラ、もったいねえ」
僕は呆けたように動きを止めてしまった。言われたことと、その意味の回路が繋がるまで時間がかかって、繋がった途端に化学反応のようにかあっ、と顔に熱が昇った。猿野くんはまだ酔っているのかもしれない。からかうのにうってつけな僕の反応を見ても、黙っていた。その目は、まるで、とても、とても真剣に本当のことを言ったときみたいで。
思わず、手は伸びた。
お酒で赤くなった猿野くんの頬に、片手に添えて。持っていた袋を畳みの上に置いて壁に手をつき、そこに寄りかかる顔に近づく。猿野くんが首を傾げて
「……たっつん戻ってくるぜ?」
「ちょっとだけ、すから」
そういえば、今日僕誕生日なのにおいしいとこ何にも無かったんすよ。
これくらいバチ当たんないと、思うんすけど。
「子津?」
いつになく危ない橋を渡る僕の名前を呼んだ猿野くんの目が、それでもゆっくり瞑られたので。
せめて後五分は、戻ってこないでくださいと心の中で辰羅川くんにお願いして。