負けちゃった
電車を降りると、見慣れた人影を見つけた。
「あれ……」
独り言になってしまうのにも構わず、がやがやとしたホームで思わず思わず呟く。目線の先に居るのは猿野と子津、である。屋内のホームで辺りは暗く、加えて人の頭の間から覗きみることしかできないが多分間違いない。
部活後、確か自分の方が早く学校を出たはずだが、おそらく定期の更新をしている間に追いつかれたのだろう。同じ電車に、乗っていたようだ。人ごみをどうやって掻き分けて二人との距離を縮めようかと考えていると、不意に子津が猿野の脇の下に自分の肩を入れた。どうやら、肩を組んでいるらしい。
わあ。
今度は声に出さずに、兎丸は呟いた。
男同士でわかりにくいとはいえ、さすがに公共の場でイチャつくのはどうかとおもう。
まあ、猿野の選んだ相手が自分だった場合、それを抑えることが出来るかどうかはこの際おいといて。
更にどうやって子津の後頭部に華麗、かつ見事などつきを決めようか考えをあぐねているとどうも猿野の様子がおかしいのに気づいた。いや、肩を組むのに照れているとかそういう話ではなく足の運びがおかしい。
怪我しているのだと、やっとわかった。
同時に、普段は滅多にイチャつくことのない二人の、今の状況の理由も。気付いたのだ、彼は。決して近くのポジションでなく、尚且つ特別特訓のためほぼ一緒に練習できないのにも関わらず、
彼は気付いたのだ。
外野でいつも背中を見ていた自分も、隣にいた蛇神も司馬も気付かなかったであろう、彼の我慢に。
『ちょっと忘れ物をしちゃったんで先行っててくださいっす』
別れ際の言葉を思い出す。何かおかしいな、と。違和感の正体は、きっとそれが猿野の治療をするための嘘であったからなのだろう。
小さく拳を握る。
敵わなかった理由を、ようやく知った。