モクジ

  神様のおかげ  

 ふ、と思い当たって獅子川は顔を上げた。
「うッしお」
「はい」
 予想と違う反応をされたことで、呆気にとられた視線の先で、牛尾が鋏を差し出して(勿論刃の方を持って)いる。
 獅子川が固まっていると
「これだろう?」
 と、小首を傾げられた。
 そんな如何にも不審げな視線を向けられて、獅子川は声にはならない心の中で言い訳する。
 確かに、確かに自分は鋏を求めて牛尾に声をかけたのだが……っ。
「なッんでわかった?」
 声をかけただけで、差し出されてしまっては何となく居心地が悪い。
 なので思わず尋ねた。が、逆に
「何が?」
 と、問い返されてしまう。
「……」
 何が……何が……相変わらずの牛尾の思考回路に、一瞬獅子川の思考回路まで動くことを拒否してしまった。
 それを何とか宥めすかして、獅子川は再度、問いを口にした。
「オッレが鋏借りようと思ッてたのが」
 え? と聞き返して、暫し牛尾は首を捻っている。
 チッチッチッチッチッチーンッ(古典的)
「ああ、うんそうだね」
 と、一度一人で納得したあと(何に納得したのかすら獅子川にはわからないのだが)なんでかな? ともう一度、首を捻っている。
「オッレに聞くな」
 半ば、憮然として獅子川は答えなかったが牛尾も答えを期待していたわけではないらしい。
 んーと何かを探すように虚空を見上げた後、あ、わかった! と満面の笑顔を獅子川に向けた。
「きっとそれはね」
にこにこと人差し指を立てて、子供に言い聞かせるように獅子川に言う。

「僕が獅子川くんのことばかり考えてるから神様が教えてくれたんだよ」

 オッレのことばかり……と獅子川が反芻し、一瞬後その顔が朱に染まる。
 結局、神様ってなんだ神様って! とツッコミいれることも出来ずに顔を赤くして、絶句してしまった獅子川だった。


 一方、その教室の窓の向こう。



「普通……」
 運悪く一部始終見ていた犬飼が横の子津に呟く。
「スナック菓子の袋が開かなくて四苦八苦してる人間の必要としてるもんは一つじゃないか?」
 子津も頷く。
「しかも主将、獅子川先輩の方しか見てなかったっすからね。あれでわかんないのもどうかと思うんすけど」
「とりあえず、そうだよな……」
「まあ、いいんじゃないすか? 本人たちが幸せなら」
「……」
「何驚いてるんすか」
「とりあえず、子津がそんな毒のないことを言うのが珍しい」
「馬鹿な子ほど可愛いって言うじゃないっすか。まあ、猿野くんの右に出る可愛さではないっすけど」
「……(やっぱこういうオチか)」
「何が言いたいんだか知らないっすけど、喧嘩売るなら買うっすよ?」
「とりあえず、オレはまだ死にたくない」
モクジ