GIVE YOU
やけにこの高校生御用達のファーストフード店に、同い年の癖に似合わない男とオレは向き合っていた。
その名を辰羅川という。
オレの視線を意に介さないかのように、辰羅川は黙々とストローに口をつけていた。
辰羅川が今飲んでいるのはコーラだ。
いまいち、イメージに合わない。
「たっつんさ、」
「はい?」
辰羅川の視線が、傍の観葉植物からオレに移る。
背中の遠くの方で甲高い女の子たちの笑い声が、聞こえた。
近くの女子高の集団だ。
さっきちら、と振り返ったが好みの女の子は居なかった。
「コーラとか好きだっけ?」
「いえ、普段はあまり好んで飲みませんね」
と、今度はオレからプラスチックの蓋に目を落としてみせる。
それはさも当然のことと言った感じで、どこか尋ねたオレの方を非常識に感じさせる表情だった。
いやいや、ここで怯んではいけない。
好きでもないものを飲む方がおかしいに決まってる。
変な考え方をしかけた頭を常識の方へ引きずって、また尋ねる。
「じゃあ、何で飲んでるんだよ」
「こう言った飲み物はどこの店でもさほど味に変わりは無いでしょう。なんとなく、そっちの方が気が楽なんです」
ああ、そうですか。
大雑把にしか意味を理解できなくとも、何となくここを馬鹿にしたことはわかる。
ここの一番安いセットが半ば主食と化しているオレには少し、カチンと来たがここでキレても止めてくれる子津もいないし、ギャグで怒りをごまかしてくれる沢松もいないから何も言わなかった。
それに、あんまり好きじゃないのにここに誘ってくれたってことは、オレに気をつかってくれたんだろう。
時計を見るとピッチャーの道具を買うと言った子津や犬飼と、買い物の途中で別れてから、20分経っている。
30分に近くの駅前に待ち合わせたから、そろそろ席を立つことになるだろう。
そう思ったとき、近くの子供がジュースを零した。
ガシャン、と音がして氷が散らばる。
子供が特有の泣き声を上げて、近くの客が何人か眉を顰めた。
すると、母親は怒りもせずに笑顔で子供を宥めて氷を手で拾う。
店員がちりとりと箒を持ってくるまで、若い母親は子供を責めもせず、後始末をし続けた。
やさしい母ちゃんだな、と思う。
オレの母ちゃんだったら絶対殴られただろう。
今ある優しさに感謝しろよ少年、と知らない子供にメッセージを送り、視線を前に戻すと辰羅川がなんとも複雑な表情で、それを見ていた。
「人と人というものはですね、いかに双方がそれを望もうと一方が与えるだけでは成立しないものなのですよ」
とさもそれが軽い罪悪であるかのように言う。
「? どういうことだよ」
オレには意味がわからなかった。
あの親子のことを指したのだろうか?
「尽くす方が了承していたとしても尽くされる方が了承しているとしても、何かがどちらかにだけ流れ続ければ、そこにはいつか歪が生まれます。そんな風に、一方的な関係というのはいくら物理的に、精神的に問題が無さそうでも壊れてしまうものなんです」
壁よりも遠くを見るような目で、辰羅川が言った。
そして一つ息をついて、
「私は犬飼くんに頼られるのは好きですが、頼るのは嫌いなんです」
と言った。
それに対する心が止めていた。
言ってはいけないことの気がしたのに、言葉は止まらなかった。
「駄目じゃん。さっきお前それじゃ続かないって言わなかったかよ?」
せめて冗談混じりに言えば
「ええ、だから私達は長くないんですよ」
たっつんは微笑んだ。
声が枯れて、喉が渇いて途切れ途切れにそれでいいのか、と問うと
「犬飼くんは、それでも困らないと思いますから、それでいいです」
とまた微笑んだ。
ああ、時間ですね、と辰羅川が立ち上がる。
オレは何も言えずに暫し動けなかった。
不思議そうな顔をして辰羅川がオレを促した。
一ヵ月後、たっつんと犬が少しだけよそよそしくなった。
幸せそうに、たっつんが犬に向かって笑わなくなった。
よそよそしくなったのと同じぐらいに犬が哀しそうだった。
ほんの少しだった。
たっつんも少しは犬のことを考えてやればいいのに、と思った。
何故かじわりと涙に襲われた。
絶対に泣いてなどやらないとオレは校庭の片隅で乱暴に目を拭った。