学校のサボり方
吐いた息は白くて、気を抜くとすぐに手足も赤くなってしまう。
僕は、自分の生まれたこの寒い季節が大嫌いだった。
もっと過ごしやすい、春か秋に生まれたかったのに。
僕の誕生日を聞くと、みんなちょっと驚いて挙句の果てに「羨ましい」なんて人も居る。
そういう人は、クリスマスと誕生日を一緒にされてしまう悲しさを知らないからそういうことが言えるんだ。
みんながサンタさんの話をしているのに、自分だけ誕生日プレゼントの話しかできない侘しさは中々言葉に出来ないものがある。
ついたため息はやっぱり白くて、げんなりして僕は足を止めた。
学校にいくのも、もう面倒くさくて仕方ない。
もうこのまま家に帰って、暖かい部屋で寝てしまおうか。
父さんも母さんも、きっと仕事に出てしまったあとだろう。
そう決めてしまうと進む気にはなれなかった。
笑いあう同級生を掻き分けて、逆行する。
兎丸にはあとでメールでもしておけば……すむ……だろう……?
「あっ、司馬クーン!おはよ!」
5Mも戻っていないのに、障害物が目の前に現れた。
兎丸だ。
噂をすれば何とやら。
フォローなんか考えなきゃよかった。
なんて、バッドタイミングなんだろう。
このままでは強制的に学校へ連れ戻されてしまう。
『ふりだしへ戻る』ついでに『GAME OVER』
僕の絶望に気付かず、兎丸は自慢の脚力で短い距離を走ってきた。
寒さに頬が真っ赤だ。マフラーくらいしてくればいいのに。
「司馬くん相変わらず重装備だね!」
目の前まできて、兎丸はそう言った。
そりゃ相変わらず帽子しかつけていない兎丸に比べればコートにマフラーついでに手袋、耳あて兼用ヘッドフォンも重装備だろう。
僕にはこれでも寒いぐらいである。
「でもすっごくいいタイミング。僕、朝からずっと司馬くんに会えないかなって思ってたんだよ」
へえ、そうなんだ。僕は会いたくないと思ってたよ。
普段の兎丸は面白くてスキだけど、こういうときは少しだけ……いや、嘘はよそう。
結構煩わしい。
そんな僕に、兎丸はにっこり笑って、続けた。
「一緒に学校サボろうよ!」
え?
考えるまでもなく僕の頭は上下に動いていて、気がついたら学校の最寄り駅の登りホームで電車を待っていたのだ。
「電車遅いねー。やっぱりさっきの通勤快速に乗っちゃえば良かったかな? でも混んでるとこにもう一度は乗りたくなかったし……」
とまる、と声なくして呼びかけても兎丸は振り返ってくれた。
これはある種の才能だろう。ソロモンの指輪でも持っているんだろうか。
「何? 司馬くん」
(どうして今日サボろうと思ったの?)
尋ねると兎丸はえ、って顔をした。
……そんなに僕、変なこと聞いたかな?
「えーっとね、あのね、今日、司馬くん誕生日でしょ?」
うん。と頷く。
疑問系なのは普通だろう。
僕だって、兎丸の誕生日なんか春生まれだってことぐらいしか覚えていない。
「だから」
いや、繋がってないよ。
指摘すると、えー? あー? うーん? と兎丸は首を傾げた。
「んとね、あのね、司馬くん、今日誕生日でしょ?」
さっきも言った、とは伝えずに頷く。
「だから」
(……あのね?兎丸)
「ん?」
(さっきとあんまり変わってないんだけど)
「そう、かな?」
(そう)
駄目だ。埒があかない。
ちょうど各駅停車が来たところで、乗り込みながら別の方面から尋ねてみることにした。
(兎丸は今日、どの辺りから僕とサボろうと思ったの?)
三つ空いている席の真ん中に座っていたおばさんがずれてくれた。
会釈をして、並んで座る。
「うーんとね、朝電車に乗ってて、あ、今日司馬くんの誕生日だなって思ったところから」
(その前に、なんのこと考えてた?)
「朝ご飯のこと」
(じゃあ、その後は?)
「ん、えーとね、僕の誕生日のこと考えてた」
(兎丸の?)
「そう」
(どんなことを?)
「サボりたかったなぁって」
(え?)
思い出してきたのか、兎丸は僕が促さなくとも話を続けた。
「すごく暖かくて、いい天気で、このまま学校に行きたくないなって思ったんだ。でも一人じゃつまんなくて、学校に行けばみんなにおめでとうって行ってもらえるから学校に行ったんだ」
つまり、
自分は学校に行きたくなかった→でも一人は嫌→僕(司馬)も同じことを考えてるかもしれない→一緒にサボろう!
……ああ、うん。すごく、よくわかった。
「そういえば司馬くん、もしかして学校行ってみんなにおめでとう、って言われたかった?」
授業を受けたかったとか(あ、そういえば今日は授業がないか)、部活に出たかったとかいう選択肢は、兎丸の中にないらしい。
まあ、でも。
(そんなこと、ないよ)
首を左右に振ると兎丸が満面の笑みを浮かべた。
(ねえ、兎丸って誕生日何日だっけ)
「5月31日だよ、なんで?」
僕の口も、きっと笑っているだろう。
それはもう楽しそうに。
(今度は、僕も誘うよ)
約束だかんね! と抱きついた兎丸に、僕が速まる鼓動の意味に気付くのは、
もう少し先の話。