| 玄関に立った兎丸のあかいめが、ぐるぐるしている。 一言も言わない彼を階段の上のオレの部屋へ促して、居間に母さんに兎丸の来訪(とココアを入れてくれるよう)伝えに顔を出してから、待っていてくれた小さな靴下の足につき従うように階段を登った。 ドアを開け迷いもせずにベッドに腰を降ろす動作は、わざと騒がしくしているようで荒い。 赤い目には力が入っていてぷうとほっぺにも空気が詰められている。 床に置きっぱなしにしていたクッションに腰を降ろして、尖る唇を見上げる。積もる怒りを、力にして吐き出すために、兎丸の足がばたばたと床を叩いて、クッションも振動した。 雰囲気に僕が話を切り出すことを求めているけれど、敢えて黙った。気が済んだのか、言葉が出来上がったのか、兎丸が足を止めた。 「……信じらんないの」 黙っていたのは、僕が喋られなければこうして話してくれるから。下手に尋ねると、兎丸は何もいえなくなってしまう。 兎丸が、喋ろうと口を開けたまま、沈黙を作っている。おなかの中でぐるぐるしている何かを一生懸命言葉に変えているみたいに。 「……結局さ、あの二人どっちもバカなんだよ、わかる?」 あの二人がもう誰だかわかってなかったけど、兎丸は気づいてないみたいだったから頷いた。どうせ、話のうちにわかることだ。 「子津くんは子津くんで、自分に自信がないから気ぃ使うことしか出来ないし、兄ちゃんは兄ちゃんで、今までヤなこといっぱいあったから、ちょっと辛いことがないと落ち着かないの。二人が二人とも、相手だけ良くて自分が辛ければいいと思ってて、それにどっちも気づいてないんだよ。バッカみたい。どこにもない問題を作り出して、わざと辛くなって、自分は今こんなに悲しいんだから、相手は幸せなはずだって思い込んでるんだよ。あんなに、二人で幸せになれる人たちっていないよね。割れ鍋に綴じ蓋って、あの二人のことでしょ? あんなにぴったり寄り添えるのに、抱きしめるのも怖くて出来ないんだよ。バカみたい」 おなかにたまった石は取り出せなくても、ぐずぐずした空気は言葉と一緒に吐き出すことができたのか、兎丸の目のぐるぐるがちょっとだけ遅くなった。遅くなったぐるぐるの目を、ぱちぱちさせて兎丸が僕を見る。 違うよ、ともそうだね、ともいえなくて、僕は頷いた。 「本当にバカなんだよ、二人とも」 相談されたわけじゃないのに、ずっと見てて、そのことがわかって、こうして怒ってあげてる兎丸もバカだと思うけどいえなくて、頷いた。 ぐるぐるがゆっくり止まって、ため息が部屋の中に漏れ出す。 |