救ったのだと君は知らない

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 子津と顔があわせられない。隠してたわけじゃない。自分でも認めたくなかっただけだ。でも言わなかったのは本当で、悪いと思うけど、謝って許してもらえなかったらと思うと怖い。嫌なことに立ち向かいたくない。ゆっくり寝たい。
 なんで、あんなものを、今更。試合終了の声がまだ耳に残っている。いまさら、なんだよ。捨てたんだろ、それで充分じゃんか。いまさら、なんだよ。自分でわからない。あいつらが、かわいそうな何かであるはずがない。
 子津にかくしごとをするつもりはない。でも、何も聞かれたくない。言わなきゃいけないって、わかってる、だけど。
 くるしい。なんでいまさら、こんなに苦しいんだ。泣き虫あーくんはやめたはずなんだ。兄貴なんてどうでもいいんだ。親父なんて、オレにはいない。それでいいんだ。なんで、喉から何も出てこないんだ。くるしい。痛い、本当に痛い。どうしたらいい。
 勘違いするな、叱るな。何も出てこないだけで、話したくないわけじゃねえんだ。頼むから、そんな悲しそうな顔すんな。何も聞くんじゃねえ。お前にヤな顔されんの、ほんと辛いんだよ、オレ。信じろよ(って、鼻水が詰まってなきゃ、言えてた)。
「猿野くん」
 やめろやめろやめろ何も言うな。何も言うなよ。いつもみたいに、笑ってくれよ。オレが嫌いな顔すんなよ。何も言うなよ。オレちょっと今おかしんだよ。明日になったらいつもみたくボケるから、笑わすから、ヤな顔すんなよ、なあ。
「その、僕、何も知らなくて」
 聞くな知らないままでいろ。何も知らないままで。笑わかすオレだけ見てろよ。そんな悲しそうな顔、いらねえ。
「何もわからなくて」
 お前はそれでいいんだ。
「……でも、泣かないでなんて、言わないっすから」
 なんのはなし?
「こっちを向いてくださいっす、猿野くん」
 やめろよ肩掴むなよ振り向かすなよみっともねえんだ壁と仲良しでいたいんだよくそ。
「一人で泣くなんて、さみしいっすよ」
 そんなあったかい手で背中撫でんなよガキじゃねえんだよママかてめえは。ハンカチでも渡して一人にしてくりゃいいんだよ、誰も気付いてねえのに、なんでお前だけオレ追ってんだよ。今だけだよ今さえ終わればいつもに戻れるから。こんな情けないとこ捕まえてんじゃねえよ。
「何も出来ないかもしれないけど、ここにいるっすから」
 甘やかしてんじゃねえよ、バカ。


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