座布団を抱えて、猿野くんが寝そべっている。
埼玉選抜合宿スタートまで、残すところ24時間を切った。
右耳を丸めて枕にした僕の座布団に押し付けて、縁側から庭を見ている。風は緩く、けれど僕らに忘れるなと訴えるように、時折風鈴をかき鳴らした。
日が落ちきりかけ、寺社の林に赤い光が掻き消えようとしている。電気もつかない部屋はとめどなく汗が流れるほど暑いのに、冷たい。しんと静寂に張り詰められた空気は味気なく、僕は立ち尽くしていた。
さきほどまで平和そうに惰眠をむさぼっていた背中に、拒絶されていた。鋭利な沈黙に対抗する術を知らない。
手にしたタオルケットが、腕に張り付き、もがきだしそうな黄昏だった。
汗に張り付くTシャツが、ゆっくりと起き上がる。夢の中で、動かせない体に閉じ込められているみたいだ。ぴんと真っ直ぐ張られた、筋肉のついた背中が、ゆっくりと前のめりに揺らぐ。畳を涙が濡らした。その音に崩れたように、僕は隣に膝をついた。行き場のなくなったタオルケットは、僕の膝とあぐらをかいた猿野くんのむき出しの足を庇うように、広がってかかった。
あんな泣き顔があるとは知らなかった。夏の夜闇に照らされ、薄暗くなった横顔は、ゆがみもせず涙に侵されている。皺一つできない頬をたどる雫は、猿野くんの心や意思を無視して、神様に無理やり零されているみたいだ。
石灯籠の光を宿して、濡れる瞳は外界にひずまずに、真っ直ぐどこかを見据えている。
「オレだけなんて、いやだ」
涙腺からしぼりだされた蛍石と紐で繋がったように、掠れた声が床に叩きつけられた。
明日、僕らは離れ離れになる。上り詰める猿野くんがそれを惜しむことが、甘い喜びを僕へ滴らせた。