カーテンから漏れ出る光は薄く、部屋の中は薄暗かった。灰色をしたシーツの隣には誰もいない。
 目を擦ると、睫がパリパリとしていた。
「猿野? どこだよ?」
 呼びかけると、カーテンの向こうから、指が覗いて朝日を部屋へ招き入れる。起きたのかよ、と何が楽しいのか、猿野の笑い声が風に混じった。窓を開けているらしい。
 太陽に当たり損ねた風が冷たく部屋の中へ吹き込んでくる。
 さみい、と文句を言うと、来いよ、と猿野が言う。てんでかみ合わない会話に手に触った布をひきずってベッドから降りたら、それはシーツだった。
 力を入れて、布団から引き抜く。微かな日に当たった部分だけ、それは白く輝いた。
 窓を背にしてベランダに座り込んだ猿野の口元から、紫煙が上がっていた。日が昇ったと世界へ知らせる、狼煙のように。
「服ぐらい、着てくりゃいいのに」
「お前が着てんの、オレのシャツじゃん」
 もう値段も忘れたオレのシャツの裾を、猿野が摘む。気づかなかったと白々しく言い放って、身体より大分大きいその襟を入れと言わんばかりに開いてみせた。しょうがないので、横に座ってやる。
 見ろよ、と猿野が前を指差す。
 白く小さな雲が薄く左右にたなびいていた。その間から、引っ込み思案のガキみてえに、ちらりと太陽の白い頭が覗いている。紫と赤の間に、雲が染まっていた。押さえつけられた光は、空を捕らえる網のように、霞んで四方に広がる。
 弾けた種から飛び出すように勢いの良いそれは、ここにたどり着くまでに柔らかく緩んで、猿野の顔を浅く照らした。益々茶味を帯びた目が、オレに笑う。
「朝日」
 見りゃわかるっつの、バカ。
 ちょいちょい、と人差し指で猿野が呼ぶ。オレの躊躇いなどなかったかのように、強く腕は引き寄せられた。開けっ放しのシャツの中の、さわり心地がいいとは言えない素肌。
 ちっけえくせにオレを無理やり腕の中に抱え込んで、あったけえ、と猿野が笑う。
 オレが包まるシーツの端を摘み図々しくも自分も入って、まるで雪山で遭難したみたいだ。
「お前が寝ててさ、」
「ん」
「カーテンちっとだけ開いててよ、お前の顔に、光がかかって、白く落書きされたみてえで、ちょっと面白かった」
「んだよ、それは」
 わざと眉間に皺を寄せると、猿野がちゅうと下品な音を立てて唇で吸った。吸われて、皺が消える。
 と、なんだか眠くなってきた。寝ちまえよ、と言って寄りかかってきた猿野の方が眠そうで、けっきょく風邪をひくまでそうしてた。