草の上の安息

 柔らかなあどけない緑の上で、風に遊ばれて金の髪が踊っていた。
 装飾として持て囃される色に相応しい輝きで陽を受けている。
 太古には永遠を謳われた色を引き立てるのはふっくらとしたオオバコ、ちらちらと揺れるシロツメグサ、それによく似たカタバミ、青いオオイヌノフグリ、立体的なホトケノザ。
 遠くのベンチには、魁や緋慈華汰が座っていた。そこから視線をずらすと、赤と白の縦じまのテントの売店の傍で小饂飩と鳥兎がなにやら物色している。
 それを眺める沖と由太郎の寝そべる緑の絨毯は、白い柵で丸く区切られ、広い公園の中に砂利道を挟んであちらこちらに同じものが点在していた。斜め後ろのそれからは、波羅の鼾が聞こえる。
 黒のタンクトップから剥き出しになった腕を折り曲げ、重ねた手のひらを頭の下に敷き、由太郎は空を見上げている。その隣に折り曲げた膝を抱えて座る沖がベンチや、売店をいつも通り憂鬱そうに眺めていた。
 細く束ねられた由太郎の髪が、風に運ばれひらひらとときおり沖に触れる。
「眠くなっちまうな」
 言う割には眠気と無縁の顔で、由太郎が歯を見せて笑った。
「こんなところで寝るなんて……めんどいよ」
 ぷちっと、オオバコの葉が毟られた。
「そっか? オレは結構気持ち良さそーだと思うけどなっ」
 ぷちぷちっ、カタバミが風に舞う。
「あ……」
「何?」
 呟かれた声に、由太郎が身を起す。
 小饂飩が、なにやら大きく手を振っていた。怒鳴る声は砂利や風に攫われて、どうもここまで届きそうに無い。眉を潜めて
「なーんだよーっ? うどん先ぱーいっ?」
 起きた拍子に、広がった髪が沖の前髪から額にかかる。かかったそれを摘んだまま、沖も右手や左手を不規則に振る小饂飩を、視界を安定させるために目を細めて見やる。
「なんか……持ってない……? 両手……」
「あ、ジュースじゃねえ? 奢ってくれんのかな? オレ、コーラがいいーっ」
 由太郎の大声も、やはりあちらに届かないようだ。了解の応答もなく、小饂飩は仕草を繰り返している。
「あー、これ無理っぽい。オレ、行ってくんぞ。沖は何がいいんだ?」
「別に……なんでも……」
「じゃあ、カルピスとポカリだったらどっち」
「……ポカリ……」
「りょーかいっ」
 ぴょん、と立ち上がった由太郎が駆け出していく。摘んだままの1房が、つるりと指の間を抜けた。
 白い柵を越えて、少し遠回りしてでも道なりに行けばいいものを、また別の柵を越えてどうやら真っ直ぐ売店に向かうつもりらしい。妙に軽快で、まるでハードル走にでも勤しんでいるようだった。
 金髪の離れてしまった手をぼんやり眺めて、逸らした上体を支えるように、後ろ手につく。
 見上げた空は、薄い青をしていた。もくもくと膨らんで流れる雲が、溶け出したように果敢ない色。ピュウッと鳴き声が響いたと思ったら小さな鳥影がまっすぐに横切って、どこかに消えていく。
 何度か、鳴き声は続く。
 微細な銀細工のような形を記憶に焼き付けるように目を閉じる。
 静かな春の空気に眠気を感じ始めたころに、眩しい太陽のおかげで赤かった瞼の裏が急に明度を損ねた。
「おーき、ただいま!」
 右手にコーラを握って、左手でポカリを振る由太郎が水色を背景に沖の顔を覗き込んでいる。
「……ありがと」
 受け取って、俯きながらプルタブに爪をかける。こんな傍に来るまで気付かなかったことが、気恥ずかしい。
「さっき、鳥が飛んでたぞ、沖は見た?」
「……見た」
「すっげえ早ぇのな! なんかカッコ良かったぞ!」
「そうだった……?」
「うんっ、オレ、鳥好きだな!」
「焼き鳥……好きだもんね……」
「おうっ」
「……………………ポーは……食べないでね……」
「なんで? ポーは猫じゃんか!」
「うん……」
「おわっ、コーラが泡吹いた!」