笑ってみれば
行き場という言葉が嫌いだ。
墓場に似ている。
陰鬱な荒涼とした土、並び立てる朽ちた墓石、笑う髑髏、飛び交う醜く老いた魔女。
光も希望もない。死ぬために生きていく人間の、終着点がそこにあるだけだ。事実はそれだけであり、本能はそこからいとも簡単に恐怖を生み出す。生き物の第一義、生きていることを何より優先しろと、喚く。
由太郎も1度この景色を見てしまえばいい。そうしたら、あんな風に笑えなくなる。どんな楽しいことがあったって、湿った死の記憶がふと蘇れば、たちまち黙って消えてしまいたくなるに違いないのだから。知らないから、笑えという。空を見ろという。仲間を見ろという。真っ平だ。何もかもあそこへ行き着く過程でしかない。
墓石が音を立てて荒らされる。根こそぎ、時の手に連れられて消えてしまう。そこに、安寧も何もない。全て奪われるだけだ。魔女が笑っている。引き攣った声に、首を吊りながら。
耳を塞ぐ。
聞きたくない、聞きたくない。傷つけるな、もうどこへ動かないから。ずっとここへ蹲って、死者になる日を待っているから。笑うな、僕を、笑わないで。
ねえ、由太郎、此処に来ても笑うの、僕を笑うの、何に笑うの、どうして笑っているの、どうして由太郎がここにいるの、ねえ、ここにいても笑えるの。
「沖も笑ってみればいいのに。面白ぇもの、いっぱいあんぞ?」
笑ってみれば、この地獄が楽園に変わるとでも言うの?
「なあ、笑ってみろって」
由太郎こそが、楽しげに笑っている。
由太郎の立つ場所から、緑が広がっていく。墓石が崩れて花の群生が一斉に咲く。骸骨は横たわり肋骨が羽ばたいて蝶がひらひらと菫に取り付く。笑い声に顔を上げると、小鳥が鳴いているだけだった。