おかしな夢を見た。


 わたしとあの人は、同じ学校の同じ学年の同じクラスだった。
 あまり頭の中身が詰まっていないあの人は、何かと学業に支障を生じさせてはわたしを頼りにやってくる。やれ次当たるだの、やれ教科書忘れただの、その度に捲くし立てて大騒ぎをする。わたしは呆れて眼鏡をあげて、「次はありませんからね、まったく、こんなことをしている暇はないのに」と憎まれ口を叩き、ノートを見せてやったり机を寄せてやったりするのだ(席も隣同士。居眠りの鼾に耐えかねた教師が教科書の角で殴りつける前に、起してやろうとさえした。起きなかった)。先輩の日夜鳥さんに追われ、わたしの背の後ろに隠れきれずはみ出ていた。黄泉さんが屋上で上半身裸ですよとホラを吹くと、アフロの後姿は階段へ飛んでいき、わたしはひどく感謝された。わたしもあの人に対して気がねなく、大勢の中で楽しげに笑っていようと近づいて用を頼むことができた。棚の上のダンボールに手を伸ばしながらわたしの発育の悪さを笑うあの人を、あしらう言葉もよどみなく口から溢れた。
 その日彼の家人が旅行で出払っているということだった。一人を嫌う彼は、わたしが泊まりに来ないかと尋ねるというよりは決め付けている。わたしと彼は幼馴染で、小さな頃はよく行き来をしていたのだけど、高校に入ってからそれも途絶えていたので、返事に戸惑った。それに彼は夕食の準備の担当の割り振り方に夢中でそんなことには気がつかない。明確な否を口にすることも出来ず、わたしは放課後パジャマと枕と時計と教科書を持って、制服を着たままあの人の家に向かった。昔ながらの気安さでチャイムも鳴らさず声だけかけて玄関を開け、案内もなしに二階へ上がるとあの人は部屋着にしているというランニングシャツとトランクスのまま腹を出してだらしなく寝ていて途方に暮れてしまう。
 もう長い間一緒にいるのに、わたしの気持ちに気付きもしない彼は大鼾をかいて無防備に寝ている。何かをするような度胸はないけれど、もし今起して寝ぼけ眼の睫にキスをして好きだと告げたらどうなるだろうと、寝顔にかかる艶のある赤い前髪を撫でながら、そればかりを考えていた。



 ピ……ッ喚きだした一声に、条件反射で止めてしまった目覚まし時計を見る朝は、夢のように優しくはなく、わたしとあの人は違うクラスで違う学年で違う学校だった。
 もちろん幼馴染でもなかった。連絡先さえ、聞きそびれた。
 こんな夢を見たことに戸惑うほど、わたしとあの人の間には何もなかった。あれほど優しいものは望まないから、何かがほしかった。