質は、ぞんがいに柔らかいのだ。

 それを鷹羽は知っている。
 眉間に皺を寄せて、睫に半分隠れている瞳は亜麻色、睫自身は栗色、髪と同じ色だということも知っている。じっと、鴨神は黙っている。黙っているので、どうしようもなく、鷹羽はそれを見つめて、観察している。やわらかな髪は、あけはなしの窓に揺れている。
 いつまで、黙っているつもりだろう。
 鷹羽はようやくその問いにたどり着いた。ゆうに、30分は経っていただろう。喋るのが常の彼らの土地の気風にしては気詰まりを通り越して自棄を起こしてもおかしくないほどの沈黙が、彼らの間を眺めていた。
 そうして、鴨神と違って、自らの土地の気風に大きくは異ならない鷹羽は観察に厭きた途端、静寂に耐え切れなくなった。どうして、こんなことをずっと続けているのだろう? しかし、鴨神はみじろぎもせず、口を開く予感はない。
 こちらから火を切ることにする。
「何べんも言うとるさかい、嘘やないで」
 ぴくりと頬が動き、瞳が開かれて鷹羽を見据える。とくに力むこともなく、それを鷹羽は見返す。
「……嘘じゃないはず、ありません」
 30分前の問答が繰返されていた。
「何度もシュミレートしました。98,2%、それはありえません。もうわたしは、断られて、この場を去っているはずなんです」
「ありえてんや、認めえ」
「ありえません」
 身を堅くして、追い詰められているかのように、鴨神は言う。震えていないのが、おかしなぐらいだと見ていて思う。けれど、同時に、こんなに切羽詰っているのはおかしい、とも思う。
「なしてそうなんねん? オレの態度が悪いんか?」
「そうは言ってません、ただ、ありえないんです」
 会話は平行線を辿っている。2人はいつまでも、同じ線に立つことができない。
「おまん、わいのこと好きや、言うたやろ?」
「……言いました」
「わいも好きや、言うとる。なしてそれが嘘になんねん」
「ありえないからです」
 重ねる鴨神の声は震えていた。
 自分のタイムスケジュールに拘る鴨神は、対人関係においておうおうに勝手で、こんなものを気にかけてしまえば被害を蒙ることは目に見えている。わがままも言うだろう。苦労することは、わかっている。
 けれど見捨てきれない。
 向かいの睫に、涙がたまっている。レンズに隠れていてもわかる。
 どうして、泣くほどに、想ってくれているなら、信じないのだろう。
 ほとほと不思議に思って、鷹羽は言葉を重ねた。
「嘘やないて」
「嘘です」
「証明したるわ、なんでも言うてみい」
「……ス」
 始めて、嘘以外の言葉を口にした鴨神に、鷹羽は身を乗り出した。
「だったら、キス、させてください」
 出来ないでしょう、と、言外に含める言葉だった。
 鷹羽は何も言わずに、その手を引く。互いの顔が間近になり、相手の瞳に自分が映る。
「……っ」
 堪えきれない何かを噛み締めて、閉じた睫で涙を潰し、唇に喰らいついてくる鴨神が愛しかった。かわいそうで、かわいい男だと思った。