ぷかぷかと大神が浮いている。何故かは知らない。
 知らないが、何故かと不思議に思えば、そういえば子供たちの泣いた海に浮いているような気がしてきた。
 大神が死んだことに泣いた子供たちの海に、大神が浮いているのだ。
 不毛だ、と白雪は嘆息した。白い頭はその間もぷかぷかと波間に浮いている。自業自得だ、と白雪はもう一度嘆息した。
 波は強く高く、白雪の乗ったアヒルのボートをそのたびに揺らす。ペダルに足を預け、煙草を燻らせたまま目線だけは一心に大神の白い頭を追っている。
 また寝癖がついてる。ピンと可愛らしくカールした一本が目につく。死んでまで、大神は寝相が悪いらしい。
 こちらにいたままなら、僕が直してやったのに。
 もう一度嘆息して、その息に波が高鳴った。「おおい」大神の声が聞こえる。死者の声だ。昔読んだ民話が眼鏡の奥を走った。
 死者の声にこたえれば、その世界に引きずり込まれてしまうのが王道だ。
 わざわざ大神のせいで死ぬことはないと、伏せた目は落ち着かなく、動かされないペダルにを見つめる。
「おーい、雪ちゃあん」また聞こえる。死んでまで、能天気な調子は治らないらしい。
 バカは死んでも直らないらしいね、とあしらって怒らせたいと思った。怒るだろう大神に笑みが止まらない。
「おーい、雪ちゃん、来てくんないと、オレ溺れて死んじゃうんだけど」
 今度は声が漏れた。
 アホかあいつは。死んでるじゃないか、気づいてないのか、やっぱり死んでも治らないのか。
 どうしても、そう言って怒らせてやりたい。怒らせて、うまく丸め込んでしまって、またバカみたいに笑う顔が見たい。
 踏んだペダルは、力強い動きで応えた。どうからかってやろうか。


 子供たちが騒いでいる。
 大神が死んだから泣いているのだ。そう思った途端、5年も過ぎていることを思い出した。
 泣き声でなく笑い声だ。
 ひどく酷似した二つに、寝起きの乾いた喉から笑いが漏れた。時の冷たい手に撫でられて、あの子達も笑えるようになったんだ。
 じゃあ、泣いているのは誰なんだろう。