崩れていく身体は、虫に、似ている。中身と液体の少ない、骨ばった筋張った、大神。破れた皮膚から覗く、内蔵や肉のあるべき場所は、白茶けた空間が開いている。捕食者に捕らえられ、体液を残らず吸い取られた虫の死骸そのものだった。
 大きく、破れたようにところどころに開いている穴は、それらを吸い出すためにあけられたものだろう。
 いや、とそこまで考えて白雪は頭を振った。見渡す限り水分はない。吸い出されたというのは間違いで、きっと長くここに在るうちに、自然血も涙も汗も尿も大気へ溶けてしまったに違いない。
 いままた、ゆっくりと、大神から、大神の命を作っていたものが、抜けていくのがわかった。
 呼吸のようにふくりと、和紙の寄せ集めと見まごうばかりの大神の胸が膨らむ。膨らませたものは喉を通ることはなく、ちょうど心臓があっただろう辺りに小さな穴をあけて、空へと抜けていった。
 白雪はその傍らに膝をつく。
 その風圧で、大神の皮膚のように見えていたものが剥離して、ひらひらとどこかへ行った。拡大した毛髪のように乾燥した、元は血管だったものがむき出しに大気にさらされる。砂粒がいくつか、それに付着した。こうして、風化していくのだろう、いったのだろう、大神は。
 もうずいぶんと開いたままなのだろう、口の中で歯は朽ちていて、何百年も経ったコンクリートを思わせる。舌を差し入れると、端から水分が奪われた。紙を舐めるような味がした。
 皮膚が破れて、張り付いてきた。薄くよりどころがなくて、自らの口の中に戻した舌で、上あごに擦り付けて丸めると、もうどこにあるかわからなかった。
「待っててって、言ったから……」
 君の夢を遂げて行くから甲子園に立つまでは行けないから僕は無理だけど君のかわいい子たちをきっと全国に押し上げて見せるから衰退していく野球界を見捨ててはいけないからまだやるべきことがあるみたいだからもう少しだけ、あともう少しだけ待ってて大神!
 そうやって何度も、卑怯に逃げた言葉を聞いて、それでも?
「待ってて、くれてたの? 寂しがりやのキミが」
(僕すら、こんな身勝手な願い叶ってはいけないとわかっていたのに)
 睫がとっくに風に吹かれて消えた瞼に口付けて、白雪は微笑む。眉を下げたままで。
「こんなところで、ずっと」
 死へ向かう途中の荒涼とした大地で、横たわり続けていた大神にぽつりと、一滴塩水が。
 それはやがて風化し、大気に溶ける運命を知りながらほんの一瞬だけその肌を潤し、きらきらと輝いて。