スタンド・バイ・ミー






 春、だったと思うよ。ずいぶん前から雨は降り続いてて、すこしずつあったかくなっていく途中だった。昼間でね、そうやってしとしとしてたんだけど、とっても明るくて白い日だった。
 おばあちゃんのお葬式の日は。
 ずーっと、冬になる前からずーっと病気だったんだ。たくさんたくさん管をつけてて、呼ぶと、苦しそうにしゅごーって音がして、腕がもがいた。とっても、怖くて。
 おばあちゃんが大好きだったのに、一度そんなおばあちゃんに会ってからもう僕は病院にいけなかったんだよ、ひどい、ね。

 ……うん、そうなのかもしれないけど、でもおれはそう思うんだ。……うん、そう、だね…………そうなのかもしれない。

 それでね、あったかくなってね、まるでおばあちゃんに抱っこされているみたいな日だったんだよ、その日は。
 お葬式は室内だったんだけどね、お棺をだすときは外で待ってることになった。
 お母さんがぼくに傘をさしてくれてたんだけど、泣いていて、ぼくが傘にはいりきれていないことに気づいてないみたいだった。ぼくは傘に入るのがいやだったから、雨のカーテン越しに、ぼうっとお棺が通るために開いた人ごみの道をみてた。
 コンクリートはしろ茶けてて、さいごにみたおばあちゃんの手の色ににてたんだ。
 黒いきゅうくつな服に、ぽたぽた雫がおちて、黒を濃くしたんだよ。冷たくて、おもくなった。ぬぎたくなったけど、お母さんが泣いているから何もいえなかった。
 雨がしとしと降っていたの、まるで涙みたいに。
 泣きたくなったよ、それまで、泣いてなかった。何が起こったのかも、よく、わかってなかったのに。
 空と、おかあさんにつられて、泣きたくなった。
 でもね、それは、あんまりにも、世界の思い通りになるみたいで。
 だって、すごく、ありそうでしょう。おばあちゃんが死んで、雨の中でおかあさんのとなりで一緒に泣くまごなんて。ないほうがおかしいでしょ。かなしくもないのに、ふんいきに負けてなくこども。
 それはとても、嫌な感じがして、おばあちゃんに嫌なことをするみたいで、おれ、なかなかった。
 ただ、おとうさんやおじさんたちが運ぶお棺が動くのを見て、歌ってた。ちいっちゃな声だったけど、隣でハンカチを握り締めてたおばさんが変なめでみた。『stand by me』だったよ、たぶん。おとうさんが好きで、よくそのころ一緒にみてたんだ。「おまえが冒険するときは、俺が味方になってやるからな」っていうのがおとうさんの口癖だった、おれがちいさいときの。


 それからの司馬くんの言葉は、よくぼくの耳に入ってこなかった。ただ、春みたいにあたたかい肩によりかかって音楽のような調子をあまさず聞くために閉じた瞼の裏に、雨の中うたう、小さな司馬くんが浮かんできた。『そばにいて』と。