「すき、だよ」
 とうとう言っちゃった。はずかしいはずかしい。他には誰もいなくて、ここには彼と僕しか居なくて。
 半分だけ開いた窓から(今日はあつかったのに雨が降っていたから)風がふいて、朝練を遮った雨はもう止んで、教室の中はわずかに赤い。きょとん、と銃の整備をしながらこっちを見た彼の髪はいつも通り赤くて、彼の瞳はいつもじゃないみたいに赤かった。

 みかど、
 とても、とてもきれいすぎる瞳は怖いんだよ


 昔、揺り椅子にすわったおとうさまが、膝の上に僕を乗せて話してくれた、忙しいおとうさまとの少ない思い出。

 あくまはね、うそみたいにきれいで、まっすぐな瞳をしているんだ
 だからね、みかど。あくまの目をまっすぐみてはいけないよ


 彼は、真っ直ぐ僕を見ている。畏れを知らぬ目、強さと勇ましさが同居する、僕は彼の(きれいな)目を真っ直ぐ見ている。

(おとうさま、まあっすぐみると、どうなってしまうの?)
 それはね・・・


「しし、かわくん、僕は、きみが、」
 風がふく。葉から飛び散ったのか、冷たい雫が頬に付く。教室は夕日で赤くそまって。
「オッレも好きだぜ?」
 二度目の僕の言葉を遮って、獅子川くんが笑う。僕は言葉に詰まって、獅子川くんを見て。
 ―――――――魅入った。
 顔いっぱいの笑顔。
 そして、そうだ、僕を『好き』だと、

 彼はきっと友情のつもりでそれなのにああ、どうしてこんなに

 それはね、みかど、もうそのあくまをすきになってしまって、はなれられなくなってしまうんだよ

 胸の動悸が止まらない。伝わらなかったことに、落胆さえしない。全ての悪が善が、なんの意味も無くす瞬間。神さまも、何もかもが心から押し出されて、零れてしまう。

 もう、はなれられなくなってしまうんだよ

 僕は泣きたくなる。抑えきれない愛しさに、こらえきれない弱さに。おとうさまの声が記憶のなかの、僕の寝室にそっと響く。

 だから、きれいすぎる瞳はこわいんだよ