「――で、こないだテッレビ見てたら屑桐が出てきてよ。あいつがニュースだぜ? プロに決まッたッつッてもあの仏頂面は変わんねえのなッ。アナウンサーもビビッててよ、球団を選んだ理由だの、フォームの特徴だの、声が震えてろくに訊けねえんだッ。そしたら、あいつそうなった途端逃げ出すみてえによグローブつけて、マウンドの方―――」
「やめて!」
 ゆっくりと、ゆっくりと、ベランダで雨宿りしていた烏が刺すように冷たいだろう冬の空へと飛び立った。
 獅子川くんが目を瞠って僕を見ている。夕方から振り出した雨が窓を止め処なく濡らし続けるのが、その肩越しに僕の目へ打ち付ける。あの中へ、飛び出してしまいたかった。それこそ、今僕の怒鳴り声に逃げ出した鳩のように。
 この煮立って、情けなく自分で自分と認めることにも躊躇を感じるこの頭を冷やしてしまいたい。驚いたままの獅子川くんの髪が曇り空に照り返し、赤く青く、その陰影をつける。
 ここから逃げ出してしまいたい。
「なッんだよ?」
 刻まれた眉間の皺に、泣きたくなる。
 わかっているよ、僕が悪いってことぐらい、これ以上になくわかっている。謝れないだけ。心の中で何度嘆いても、声にはならない。
 雨が打つ。あれの一つ一つが石で、僕に向かって降ってくればいい。くるくると頭で渦巻いては、どこかへ消えていく逃避に巻き込まれていることもままならならない。
「おッめえが言わねえこッと、オッレがわかるわけねえだろが」
 些細な行き違いなんて上等なものでなく、僕の我侭。触られたくないもの、言えなかった僕が悪い。
「なんか、言えッつの。何でキれてんだよ?」
 それがわかっているから、ひとつひとつの言葉が胸に痛い。そんなつもりで、獅子川くんが言ってるわけじゃないことはわかってるのに。わかってるけど、いっそ殴ってくれた方が気が楽になる。
 ああ、神様ごめんなさい。嘘です。彼にそんなことをさせる気はありません。
「……ごめん。僕が悪いんだ、ただのわがまま」
「だから、それじゃわッかんねえよ」
 たん、とつま先で叩かれた床ごと、自分が揺れた心地がした。
「怒鳴ッたかと思えばだんまりで、漢じゃねえぞ、そッんなん」
「いいよ、漢に僕はなれないよ」
「そういう意味じゃねえッつの。オッレが、何したッつうんだよ?」
 何もしてない。何もしていない。僕が何もいえないのが悪い。
「なんだよ?」
 言えない。


 ぼくらの夏がおわったから、やきゅうのはなしがききたくないなんて。