一人旅が向いているのだと思う。他人のことを気にするのは煩わしいし、気にされるのも好かない。
異国の石畳を踏みながら、獅子川は心中そんなことばかりを考えていた。
一週間前に訪れたこの国は、日本でもメジャーな観光地らしく、聞きなれた言葉がちらほら飛び込んでくる。誰も彼もが二人連れや団体で、それぞれと楽しそうに笑っていた。
美しい町並みとして名高い通りは、天には青空を背景に洗濯物がはためき、窓辺には色とりどりの花が添えられている。有名な硝子細工は、昨日鞄にひとつ入ったばかりだ。
顔見知りになった店から、何度も声が飛び込んでくる。
「兄さん、そろそろ国に帰るのかい?」
「まだ、いくつか回りてえ気はしてんだけどな」
「じゃあ、帰ったときでも、恋人にやんなよこれ」
店の奥から、仕事に鍛えられた手で、差し出されたのはうすく穏やかな水彩の波踊る絵葉書だった。視線で尋ねると、
「うちの甥っ子が書いてんだけどね、身内贔屓じゃないが、大したもんだろう?」
獅子川は、それをことさら、潰れず破れないよう、鞄の一番上に、丁寧に敷いた。
「ありがとよ」
「おう、また寄っとくれよっ」
大きく手を振った店主は、また威勢の良い客引きに戻る。足早に進む肩にかけた鞄には、絵葉書が硝子細工が、前の国で買い求めた反物が―――他にも。ひっそりと詰まっているはずだ。
牛尾はどうしているだろう。これを見せたら、喜ぶだろうか。
渡したいものがそれぞれ鞄の中で、今か今かと出番を待ち構え、帰らぬ足取りを重くしていた。