雨の嫌いな彼は、その微かな湿り気とひそやかな雨音を耳にしただけで布団から出てくるのも嫌がる。だから二人で部屋に閉じこもり、話したり、別々のことをしたりする。香り立つ土の匂いとか、細いカーテンの降ろされたような景色の美しさを教えてあげたいと何度も思ったのだけど、一度とて聞き入れられたことはなかった。
ただ一度だけ、どうしても彼に見せたいものがあった。これを見せなければ一生後悔すると思った。
だから、思い切ってシーツに包めて担ぎ出した。怒られた。殴られた。予想はしていたので、怯まずに済んだ。ニルギリが開けてくれた玄関を飛び出し小雨を顔に受けながら、大空を指差した。
虹の根元に、宝物が埋まっていると聞いたことがある。
青広いキャンパスにひかれた七色はそれはくっきりと僕らの目に映って、たしかにその端に駆ければたどり着けそうで。ふんわりと描かれる曲線は全てを包み込むように穏やかに柔らかく、伸ばせば手が届きそうだった。それは触れることの出来ない幻でしかないのに、まるで天から気まぐれに実体で降りてきてくれたかのように、確かな力を滲み出させていた。
僕らは濡れながら、動かず、まるでその降り注ぐ存在感に縫いとめられたように、見上げていた。こんな美しい景色の中、行列する狐はとても幸せだろうと思った。
彼の赤い目が、空に染められていた。その境目はあまりにもはっきりとしていて、息を呑むほど美しかった。雨が上がりかけた、輝く青空を、僕らは夢見るように見上げていた。
あのときを、僕は忘れられない。