行ってらっしゃい、きっとこの腕の中にお帰りなさい

List



「病気でしょう? 事故でしょう? テロでしょう? 事件でしょう? あと何かな、そう、うっかり、なんてもありそうだよね」
「なッんだそりゃ」
「うっかり……波にさらわれて海におちたり。……痛っ痛いよ、冗談の話じゃないか」
「縁起の悪ぃ話、片端から並べんのはやめろッ」
「僕が去年厄年だから旅に行くのはやめてねって言ったのに、言霊は気にするのかい?」
「てめえの言うこと聞いてたら、行けるときがねえだろうがッ」
「あ、良い案があるよ! 行かなきゃいいんじゃないかな」
「ざけんなッ」
 二つ目のこぶを揺らしながら、牛尾が口を尖らせる。殴りつけた銃の柄を撫でながら
「ッたく……つまんねえことばっか言いやがって」
「危ないのは本当だろう? まだヨーロッパとかなら、治安も悪くないのに」
「お綺麗になッちまッたもん見てもつまんねえだろ。日本にいんのと一緒だッ」
「じゃあ日本に居ればいいじゃない」
「人の話聞く気あんのか?」
「君こそ」
 今度は獅子川が口を尖らせ、黙った。肯定だ。
 牛尾は首を傾げて見せる。
「さすがに、もう旅に行かないでなんていわないけどさ」
 顔を近づけて、人殺しのどうぐを持つ手を重ねた。間近の赤い目に映る、自分に笑ってしまう。泣きそうな顔をしている。
「見送るだけは、ぜったいにさせてね」


List