大丈夫、そう言って背を向けた君

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「獅子川くん!」
 周りは人だかりで、僕なんかその影に埋もれてしまっていた。駆けつけてくる先生の怒声が、遠く響く。隠匿なんか嫌いだ。罪を隠すことが、何よりもいけない。それでも。
「逃げて……!」
 叫んだ僕を、獅子川くんは確かに見た、笑った。先輩に殴られた頬を緩め、殴り倒した拳を挙げた。勝利を謳うようだった。
 裁きのときは、廊下をサンダルで駆けてくる。
「逃げ、て……」
 勝手に呟く口を抑えても、ぼろぼろと涙が零れる情けない僕の隣を、今更、本当にいまさら先生が駆けて行く。ただ一人、意識を保ったままの獅子川くんを、二人がかりで取り押さえた。
 獅子川くんは、首に輪をかけられた獣のように、抵抗もしない。逃げ出してほしい。
 今さえ、今さえ逃げてくれれば、きっと僕にも出来ることがあるのに。
「先生、待ってください!」
「これは三年生が……!」
 一宮くんや鹿目くんがその後追うけど、きっと話など聞かれない。三年生たちは、既に地元の公立大への進学が推薦枠で決まっていて、そんな生徒に問題があったことを公表するはずないんだ。獅子川くんは、一方的に悪者にされる。
 両脇を拘束され抱えられ、獅子川くんは振り向いた。また、笑った。追いかける一宮くんたちは、先生に目が向いていて気付かない。野次馬は解散し始めた。
 だ い じ ょ う ぶ
 声無きこえを、唇が呟く。すぐに先生に耳を引っ張られて、もう振り向いてくれることはなかった。


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