部室を出ると、獅子川が壁に寄りかかっていた。らしくもないぎこちない笑みで、「よッ」と片手を上げる。牛尾は呆けたように一瞬見つめ、すぐに眉間に皺を寄せた。ふいと、無言で脇を抜ける。
「……てッめえなんなんだよッ! ここンとこ、白々しく人のことシカトしやがって、漢ならはっきり言いやがれッ」
掴まれた二の腕を、乱暴に振り払った。眉に力を込め、赤い目を見返す。
「いい加減にしてくれないかな、迷惑なんだ」
「なんだッて?」
「そうやって、騒がれたりするのにうんざりするんだよ、もういいかな?」
返答の間も与えず、校庭を踏みしめる。早く車にたどり着きたくて仕方ない。膝から崩れ落ちそうだ。いやもう崩れているのかもしれない。何も考えられない。思考の欠片を拾っては、投げ捨てた。
車は校門の前で、運転手と共に従順に主人を待っていた。長く大きい、黒塗りのそれはひそひそと通り行く生徒に噂される。白い手袋に開けられた車の、最後部に乗り込んだ。扉を閉める運転手に、
「30分ほど、そこらを走ってくれないか」
告げて、クッションに身をうずめ目を閉じた。眉間の皺は、まだ解かれない。解き方を、忘れてしまったようだ。
ゆっくりと、頭をめぐるオレンジ、夕日の色、笑い声、腕を掴んだ力、悲しげな顔。
睫が湿った。片手で目を覆う。ぽたりと、雫は学生服に落ちる。
「どうして、よりによって、君なんだ」
どうしてこんなに、会っただけで泣き出してしまうぐらいに、君がすきなんだ。
夕日は答えず、スモークガラスの向こう、山に一飲みにされた。