白の中に探し続ける

許された羽音

「……ふざけてんじゃねえぞ!」
 ガンッと強い衝撃に、たまらず子津はよろけた。夏の暑い日ざしの中を、犬飼が肩で息をして仁王立ちしている。
「犬飼くん、クールダウンですよ、落ち着きなさい!」
「うるせえ、辰、離せ! このバカ、ぶん殴ってやる」
 口の中が切れたようで、鈍い鉄さびの味が口の中に広がった。
「あのバカ猿がなんのためにへばってんだ!」
 がつん、と襟を掴まれた。
「あいつが倒れてんのは、てめえのためだろう、違うか! それでお前がこんなのでどうすんだ! 心配だ心配だっつって、勝てんのか! ンなピッチャーのために、」
 そうだ、今じゃなくても良かったのに。
 暴投を繰り返すあの投手相手にムキにならなくても、道はあったのに。
 偏にそれは、ギリギリのところで踏ん張る自分のため。チームのためじゃなく、彼のためじゃなく、僕の。
 今飛ばなくても良かったのに。
 鼻が痛くなった。目が熱くなった。堪えた。何を見失っていたんだろう。どうして気を抜けるなんてそんなことが出来たんだろう。
 犬飼の言うとおりだ、自分はバカだ。バカ。
『馬ァ鹿』
 誰かの響きが、耳についた。
「すみませんっす……」
 しゃくりあげるのを堪えて、子津は犬飼を見据えた。
 翼は引き出された。
 準備だけは出来ていた翼は出来上がったわけじゃないけれど、いつだって飛べるようになっている。
 彼がまだ未完全な分まで。
 牛尾が、獅子川がこちらを見ている。やんわりと犬飼の手が外された。

「もう、こんなことはないっす。僕は、ピッチャーっすから」

 やっとその言葉が出てきた気がした。自分を示す、名。
 夏を日差しが暑く球場に降り注ぐ。
 それはまるで空へ続くはしごのようだった。
 待っているんだ。自分たちが登っていくのを、待っている。
 そのために許された羽音を、確かに子津は聞いた気がした。