それからというもの、昼も夜も明けないのは飼い主だった男の子です。小鳥が逃げてしまったと聞いて、壊れた籠の寝そべる廊下に座り込みながら、ずっと泣き暮らしています。お出かけをしなければよかったのです。今頃小鳥はネコに捕まってしまったでしょうか、それとも、この近づいてくる冬の足音に凍えているのでしょうか。
 血を流して、寒さに震えて小鳥が自分に助けを求めているかと思うと、いよいよ男の子はこの世に楽しいことなど何もないように思えてくるのでした。
 それを見て、ぴゅうぴゅうと、大声で嘆いているのは北風です。親切でしたことなので、まさかこんなに男の子を悲しませることになるとは思っていなかったのです。小鳥を連れ戻してやろうと、四方八方駆け回りました。
 そしてこの間、魚を探す鴎たちに、海に沈んでしまった小さな子のことを聞いてしまったのでした。それからずっと自分が情けなくて悲しくて、男の子が小鳥がかわいそうで、でも何もしてあげられなくて、聞く人の胸が痛くなるような泣き声を上げているのです。
「どッしたつんだよ?」
 北風の声で悲しくなってしまい、困り果てた雨雲や雪たちに泣きつかれ、どうしたものかと声をかけたのは最近曇りが多くて退屈していた太陽でした。北風は、しゃくりあげながら説明します。しょうがねえな、と聞きおえた太陽はぼやきました。
「よッうするに、その鳥を生き返らして、ガキんとこに返してやりゃあいいんだな?」
「出来るのかい?」
「オッレだけじゃ無理だな、なんつったって、死んだたッましいは、夜空で星の見習いになんだからな。何かを生き返らすためにゃあ、星に魂を返してもらわなきゃなんねえ」
「星に?」
「おッ前、頼んでみろよ、星と仲が良かッたろッ。体はオレがなんとかしといてやッからよ」
 北風は夜を待ちました。
 星はひとつふたつ、きらきらきらきらおしゃべりを始めます。
 夜空が大好きな北風は、いつもにこにことそれを聞いているはずなのに、今日は浮かない顔で俯いているのでした。星たちは、びっくりして、ひそひそひそひそ噂話をしています。
 一番大きくて偉いお星様が、北風に尋ねました。
「貴様は……こんなところでそんな陰気な顔をさらすんじゃない」
 北風は、泣きそうな目で、その星を見上げました。
「君にお願いがあるんだ。この間死んだ小鳥の魂を、返してあげて」
「それはならん。死んだやつは、帰れないと決まっているんだ」
「お願いだよ、僕のせいなんだ。このままじゃ、春になっても北に帰れないよ」
 それはとても困ります。本当は星に関係のないことなのですが、この星はたいそう責任感が強かったので、自分のせいで北風をずっととどめておくわけには行かないと思いました。
 仕方が無いので、天の神様に内緒で、ちかちか光る小石を北風に握らせてやりました。
「いいか、今回だけだぞ。次は泣こうが喚こうがないからな」
「うん、うん、わかってるよ。じゃあ僕、行かなくちゃ。ありがとう!」
 北風は、急いで、地球の反対側でお仕事をしていた太陽のもとへ駆けて行きます。
 太陽は距離も何も無視して追いかけてきた北風にため息をつきながら、海から返してもらって乾かしておいた小鳥の体を見せてやります。
 北風が大事に握り締めていた小石をその嘴に飲み込ませると、うっすらと小鳥の体は暖かくなりました。北風が運ぶのでは、折角太陽が返した暖かさがなくなってしまうので、渡り鳥たちが小鳥を運んでやることにします。
 鳥から鳥へ守られて、最後に受け取ったのは白鳥でした。
「もう、海に落ちたりするんじゃありませんよ」
 白鳥は、泣き疲れて、青白い頬で寝ている子供のそばへ、そっと小鳥を返してやりました。
 それからは小鳥はもう外の世界をほしがることなく、一人と一羽は長く幸せに暮らしたそうです。