凪の手伝いのために明美に姿を変えていた(?)猿野は今日も白魚のようなあのお美しい手が間近で見られたと機嫌もよろしく洗濯物を取りにグラウンド脇のベンチの前を横切ろうとし、立ち止まった。
 青い座板の上に、黄地の上に可愛らしいひよこを散らしたホルダーに入ったペットボトルが1つ。
(こここここここここれは、これは、ぬわっ、ぬわっ、ぬゎぎすゎんのペットボトル……!)
 伊達に十二支始まって以来の変態とは呼ばれていない。好きな子のペットボトルが目の前にあれば、考えることなど好きな子のリコーダーを目の前にした男子小学生と同じだ。
 凪はずっと向こう、洗濯場の傍で明美の帰りを待っているだろう。それどころか、見つけたら瞬時に蹴りをかますだろう清熊や、呪術で妨げるだろう猫湖もそこにいるはず。先輩マネたちは、校舎の中で消耗品の管理簿をつけている。
 邪魔は、ない。
 今だ、今しかない。男になるなら今だ。
 生唾を飲み込み、手を伸ばす。ドッドッドッと、心臓が早鐘を打った。
 ――今だ!
「こRaー!」
 手に取ったそのとき、傍の茂みから虎鉄その他多数が飛び出してきた。
「げえっ?!」
「猿野ー! それ返しやがれー!」
 走る先から、出てくる出てくる。これはみな凪の間接チッスを狙っているに違いない、確信した。
 そうと決まれば逃げるのもバカらしい、利はこちらにある! 奪うのみだ! 
 走りながらキャップを開けて舌を伸ばす。一緒に鼻の下が伸びた気がするが気にはしない。凪の純潔(間接チッス)は自分が守る!(そして奪う)
「や・め・Roー!」
 とうとう虎鉄に追いつかれ、共倒れに地面にめり込む。しかし、その中でも口はどうにかつけた、上にどさどさとむさい男が乗りかかる中、
 ごくり
 動いた喉仏に、声なき悲鳴が上がった。そして、目の前に、陰。
「な、何やってんすか……」
 トンボを握り締めた子津が、おぞましい鬼ごっこの終焉を怯えた顔で見下ろしていた。
「間接チッス☆」
 それを首だけで見上げ、親指を立てて答えた猿野の頭が虎鉄の肘で潰される。子津の目の前で猿野は人間団子の中に取り込まれていき、暫く人とも思えぬ悲鳴が上がっていた。