| 「おまじないを、教えてもらったんです」 普段は表情を崩さない鴨神がそう微笑むものだから、思わず鷹羽も相好を崩した。鴨神の部屋の丸テーブルを挟んだ向こうの眼鏡に「なんや」と尋ねる。子供のように身を乗り出す様がおかしかったのか、くすりと鴨神が口を隠して笑った。そのまま 「鵜相くんに教えてもらったんです」 悪戯そうな上目遣いで、そう告げる。子供がなぞなぞの前に、大人を伺うように。 「鵜相に?」 「そう」 答える声は、短く楽しげだ。 「もったいぶんなや」 と先を促す。「あのですねえ」と甘えた口調で、鴨神が続ける。 「やるとですね、もっと仲良うなれるって、鵜相くんが」 ずいぶんと可愛らしい効果だ。おまじないというのは、もともと女子のものだから、普通可愛らしいのか。「そか」と、鴨神が素直に可愛らしいのが嬉しく、機嫌よく鷹羽も頷いた。 「やりたいんか?」 「やっても、いいですか?」 付き合うてやってもええぞ、と、さすがにおまじないに積極的に参加するのも気恥ずかしく、そんな風に言う。 嬉しそうに、鴨神が笑った。 そんなにおまじないを信じているのか。いまどきの1年生は、ずいぶんと可愛らしい。それよりもずっともっと仲良くなれるという効果がまた鷹羽を微笑ませた。 「では、後ろを向いてくれますか? こう、自分の背に両手を回して。ハンカチ落としのときみたいに」 なんとなく「だーれだ?」を連想させる指示に鷹羽は心よく従った。鴨神が見えない状態では、何をされるか不安に思う部分もあるが、それはやってみてのお楽しみだろう。鴨神が楽しそうなのに、男らしくない臆病で無粋をさすのも気が引ける。 ごそごそと音がして、しゅるりと何かが伸びる。「動かないでくださいね」テーブルを越えて、鴨神が傍に来る気配の次に、背中に回して合わせた両手首にやわらかな感触がした。布? その上に、細い紐か何かが重ねられる。 お? と思う間もなく、ぎっちりと両手が縛られた。 左肩に手をおかれ、右に身体が傾く。予想外の動きに簡単に床に寝そべることになる。「な、なんや?」 答えはなく、両足が縛られた。 「出来ました」 鷹羽の動揺を気遣いもせず、鴨神が告げる。首だけを上げてその顔を見つめても笑みは崩れない。 「これが、おまじないなんか?」 「鵜相くんの言ってたとおりですね、簡単でした」 鴨神の笑みと自分の心情がかみ合っていない恐怖に鷹羽は身をよじる。だめですよ、と鴨神がその上に乗り上げた。がっちりと腰を抑え、動きを封じる。 「か、鴨神、なんの冗談や……あ、そや、エイプリルフールやろ?」 「だから、おまじないですよ。やってくれるって言ったじゃないですか」 不思議そうに首を傾げた鴨神が「いまさら嘘だなんてなしですよ」と顔を近づける。 「お、おまじない、言うたかて……」 「これから、僕らセックスするんですよ、セックス」 鴨神の唇から飛び出した言葉に、絶句する。知ってます? セックス、と試合の口調そのままで鴨神は鷹羽に言い聞かせる。 「鷹羽さんの尻の穴に、僕の突っ込むんです。血ぃ出るし、痛いらしいですよ」 「鴨神! もうやめや、冗談はうんざりや!」 次々とあふれ出る言葉に耳を塞ぎたくて鷹羽は首を振る。その振る首筋に、そっと鴨神が手を添えた。絞める寸前の形で。 「冗談じゃないですって。おまじないですよ、楽しみましょう? 鷹羽さん、痛くてそれどこじゃないかもしれませんけど。痛くする方法も、ぜんぶぜんぶ聞いてきたんですよ、僕。だって、痛いほうが言うこと聞きますもんね?」 こどものお遊びに付き合っているつもりが、逃げ場はいつのまにか奪われていた。呆然と鷹羽は鴨神を見上げる。 その目は、レンズに蛍光灯が反射して少しも見通せなかった。 |