われ
ても
末に
――石に割られた流れがいつか1つにかえるように、未来には共に
あんまり御柳くんが嬉しそうに笑うので、僕は思わずぽっかりと口を開けてしまった。
2年目の選抜合宿でのことだ。たまたま隣り合って休憩したときに、不意に切り出された話とその表情に、驚いたままでいる僕の横でグラウンドに座り込んだ由太郎くんが声を上げる。
「へえー! すっげえな!」
それにはっと気づいて、
「うん、いいなー!」
と僕も続く。
別に、と笑った顔をたちまち引っ込めて、照れて赤くなった御柳くんがそっぽを向いた。視線の先を追いかけて覗き込む。
「どこに住むとか決めたの? もう」
「そんなん、ぜんぜん決めてねえよ。先のことだし、普通そうっしょ」
「オレも1人暮らしってのしてみてえな、楽しそうじゃん!」
「バァカ、ユタロー。3人暮らしだっての」
身を乗り出した由太郎くんの額を、御柳くんが小突いた。
「あ、そっか、そっか。犬飼と御柳とタツラガワで3人暮らし」
そうそう、と相槌を打つその顔はやっぱりとっても嬉しそうで、ふむふむ、と観察してしまう。御柳くんってばとっても照れ屋みたいでいっつも憎まれ口ばっかり叩いているから、ここまであからさまに嬉しそうなのはとっても珍しかった。もしかしたらあからさまに見えるこれですら誤魔化しの成果なのかもしれない。
膝立ちになった由太郎くんの向かいで、胡坐をかいた片ひざを立てて、御柳くんが尋ねる。
「何、お前も家、出てみてえの?」
由太郎くんが強く頷く。
「やってみてえ気はすんぞ! でもなあ、兄ちゃんと野球出来ねえのは困っちまうぞ」
「そだな。お前は投手と一緒に暮らしてるようなもんだし、必要ねえかもな」
「それに、前、家に丸2日留守番するってだけでも、父ちゃんと兄ちゃんがすっげえ心配して、結局羊谷のおっちゃんとこに泊まりにやられちまったかんな。1人暮らしはいっぺん殴られる覚悟でやった方がいいかもしんねえ」
「わわ、そんなに2人って心配性なの?」
「そーなんだよ兎丸ー。オレももう高2なのに困っちまうぞ」
不満げに由太郎くんが自分の膝を抱く。同意に僕も頷いた。
「僕ん家も結構過保護でさー。そのうち1人暮らししてみたいんだけど、大変そうなんだよね。御柳くん家はそういうの……」
僕が興味に忠実に御柳くんたちの3人暮らしに話題を戻そうとした、そのとき
「……めんどいけど……由太郎、それは、違うでしょ……」
後ろから声がして僕らは振り返った。
何時の間にか沖くんが、由太郎くんに影を作るように後ろに立っていた。わ、びっくりした、と思わず言ってしまった僕と、軽く目を瞠っていた御柳くんに「ごめん……」とちいさく会釈し、由太郎くんに視線をやる。
「……先輩と……監督が怒ったのは、由太郎が前に1人で留守番したときにお鍋焦がしたからでしょ……」
ぐ、と由太郎くんが詰まる。御柳くんがその間に割り込むように顔をだして
「でも、そんだけで留守番させないっつのも、結構過保護じゃねえ?」
はあ、と沖くんはため息ひとつ。
「そん時……火事になりかけちゃったんだよ……。消そうとして……由太郎手に怪我しちゃうし……すっごくめんどかった……」
由太郎くんの傍に腰を降ろしながら沖くんが言うのに、僕らの視線は思わず金色の髪に集まる。
「……へへ」
悪戯がばれちゃったって感じで由太郎くんが気まずげに浮かべた苦笑に、沖くんが目をやる。
あ、すこし機嫌悪くなったなって僕にもわかった。さっきみたいにちょっとしたことで謝ってくれたり(あれは驚いちゃった僕と御柳くんも悪いんだけど)こうやって一緒に喋ってくれるようになってから、沖くんの気持ちはすこぶるわかりやすい。
「すごく、みんなとも心配したんだから……」
「だーから、あれは悪かったって! もうしねえって約束したし!」
「いまも……1人暮らししたいとか……」
「う」
「……由太郎に、出来るわけないじゃん……バカみたい……」
言ったきり、沖くんはよそを向いて黙ってしまう。
僕と御柳くんはまた由太郎くんに目を向けた。今度はじとーっとした湿度付きで。
困ったように眉尻を下げて、由太郎くんは
「じゃ、じゃあさ、沖も一緒に暮らしてくれりゃいいじゃん! 料理得意だろ? 洗濯と掃除はオレがやるから!」
って言った。驚きに沖くんの表情が崩れる。
「と、得意じゃないよ……。大体、そ……そんなの……出来るわけないじゃん……」
「出来るって! 御柳も犬飼とタツラガワと暮らすって言うし! な!」
沖くんが御柳くんを見る。まあ、な、と御柳くんが視線を逸らしながら、ちいさく頷いた。
「へえ……」
御柳くんにまっすぐ向いてる沖くんのおっきな目が興味津々って感じだ。居心地悪そうに、御柳くんが身じろぎをする。
「御柳くんが……そう言い出した、の……?」
「んにゃ、信二が。なんかいきなり」
「ふうん……」
しばらく、じいっと沖くんが御柳くんを見ている。何が起こるんだろう、と緊張していた僕らを尻目に、ちょっとだけ、分からない人にはわからないかもしれないぐらいちょっとだけ、沖くんは唇を緩ませた。
「……きっと……大丈夫だよ……」
沖くんが(どんなに少しだけでも)微笑むのはとても珍しくて、喜んでしまいそうだった。
けれど、続いた言葉に、
「後ろの人が……そう言ってる……」
僕らは思わずぞっとしてしまったのだった。
しばらく、御柳くんの背中には近づかないようにしよーっと……。
2年目の選抜合宿でのことだ。たまたま隣り合って休憩したときに、不意に切り出された話とその表情に、驚いたままでいる僕の横でグラウンドに座り込んだ由太郎くんが声を上げる。
「へえー! すっげえな!」
それにはっと気づいて、
「うん、いいなー!」
と僕も続く。
別に、と笑った顔をたちまち引っ込めて、照れて赤くなった御柳くんがそっぽを向いた。視線の先を追いかけて覗き込む。
「どこに住むとか決めたの? もう」
「そんなん、ぜんぜん決めてねえよ。先のことだし、普通そうっしょ」
「オレも1人暮らしってのしてみてえな、楽しそうじゃん!」
「バァカ、ユタロー。3人暮らしだっての」
身を乗り出した由太郎くんの額を、御柳くんが小突いた。
「あ、そっか、そっか。犬飼と御柳とタツラガワで3人暮らし」
そうそう、と相槌を打つその顔はやっぱりとっても嬉しそうで、ふむふむ、と観察してしまう。御柳くんってばとっても照れ屋みたいでいっつも憎まれ口ばっかり叩いているから、ここまであからさまに嬉しそうなのはとっても珍しかった。もしかしたらあからさまに見えるこれですら誤魔化しの成果なのかもしれない。
膝立ちになった由太郎くんの向かいで、胡坐をかいた片ひざを立てて、御柳くんが尋ねる。
「何、お前も家、出てみてえの?」
由太郎くんが強く頷く。
「やってみてえ気はすんぞ! でもなあ、兄ちゃんと野球出来ねえのは困っちまうぞ」
「そだな。お前は投手と一緒に暮らしてるようなもんだし、必要ねえかもな」
「それに、前、家に丸2日留守番するってだけでも、父ちゃんと兄ちゃんがすっげえ心配して、結局羊谷のおっちゃんとこに泊まりにやられちまったかんな。1人暮らしはいっぺん殴られる覚悟でやった方がいいかもしんねえ」
「わわ、そんなに2人って心配性なの?」
「そーなんだよ兎丸ー。オレももう高2なのに困っちまうぞ」
不満げに由太郎くんが自分の膝を抱く。同意に僕も頷いた。
「僕ん家も結構過保護でさー。そのうち1人暮らししてみたいんだけど、大変そうなんだよね。御柳くん家はそういうの……」
僕が興味に忠実に御柳くんたちの3人暮らしに話題を戻そうとした、そのとき
「……めんどいけど……由太郎、それは、違うでしょ……」
後ろから声がして僕らは振り返った。
何時の間にか沖くんが、由太郎くんに影を作るように後ろに立っていた。わ、びっくりした、と思わず言ってしまった僕と、軽く目を瞠っていた御柳くんに「ごめん……」とちいさく会釈し、由太郎くんに視線をやる。
「……先輩と……監督が怒ったのは、由太郎が前に1人で留守番したときにお鍋焦がしたからでしょ……」
ぐ、と由太郎くんが詰まる。御柳くんがその間に割り込むように顔をだして
「でも、そんだけで留守番させないっつのも、結構過保護じゃねえ?」
はあ、と沖くんはため息ひとつ。
「そん時……火事になりかけちゃったんだよ……。消そうとして……由太郎手に怪我しちゃうし……すっごくめんどかった……」
由太郎くんの傍に腰を降ろしながら沖くんが言うのに、僕らの視線は思わず金色の髪に集まる。
「……へへ」
悪戯がばれちゃったって感じで由太郎くんが気まずげに浮かべた苦笑に、沖くんが目をやる。
あ、すこし機嫌悪くなったなって僕にもわかった。さっきみたいにちょっとしたことで謝ってくれたり(あれは驚いちゃった僕と御柳くんも悪いんだけど)こうやって一緒に喋ってくれるようになってから、沖くんの気持ちはすこぶるわかりやすい。
「すごく、みんなとも心配したんだから……」
「だーから、あれは悪かったって! もうしねえって約束したし!」
「いまも……1人暮らししたいとか……」
「う」
「……由太郎に、出来るわけないじゃん……バカみたい……」
言ったきり、沖くんはよそを向いて黙ってしまう。
僕と御柳くんはまた由太郎くんに目を向けた。今度はじとーっとした湿度付きで。
困ったように眉尻を下げて、由太郎くんは
「じゃ、じゃあさ、沖も一緒に暮らしてくれりゃいいじゃん! 料理得意だろ? 洗濯と掃除はオレがやるから!」
って言った。驚きに沖くんの表情が崩れる。
「と、得意じゃないよ……。大体、そ……そんなの……出来るわけないじゃん……」
「出来るって! 御柳も犬飼とタツラガワと暮らすって言うし! な!」
沖くんが御柳くんを見る。まあ、な、と御柳くんが視線を逸らしながら、ちいさく頷いた。
「へえ……」
御柳くんにまっすぐ向いてる沖くんのおっきな目が興味津々って感じだ。居心地悪そうに、御柳くんが身じろぎをする。
「御柳くんが……そう言い出した、の……?」
「んにゃ、信二が。なんかいきなり」
「ふうん……」
しばらく、じいっと沖くんが御柳くんを見ている。何が起こるんだろう、と緊張していた僕らを尻目に、ちょっとだけ、分からない人にはわからないかもしれないぐらいちょっとだけ、沖くんは唇を緩ませた。
「……きっと……大丈夫だよ……」
沖くんが(どんなに少しだけでも)微笑むのはとても珍しくて、喜んでしまいそうだった。
けれど、続いた言葉に、
「後ろの人が……そう言ってる……」
僕らは思わずぞっとしてしまったのだった。
しばらく、御柳くんの背中には近づかないようにしよーっと……。