長く
もがなと
思ひ
ける
かな

お前らが心配だから、死んでも死にきれないって事!
 ゆうらり、ゆらり、揺れていた。夢から目を覚まし、僕は目を瞬いた。
 時計のように規則正しい音、流れていく景色、体をゆすぶる振動、薄汚れたクリーム色の床に差し込む弱弱しい光はふるえるゼリーみたいにあやうくて……。
「おきた?」
 みじろぎした僕に、司馬くんの声が上から降る。僕は右耳を司馬くんの膝につけて、人気の無い電車の座席に横たわっていた。
「僕……?」
「『誰か』がね、とまるのからだから出て行ったとき、寝ちゃったんだよ」
 体を起こす僕を助けてくれながら、司馬くんが言う。
「御柳くんが、家で休んでいけば、て言ってくれたんだけど、きっと、とまるはそれが、いや、だろうと、思った、から、おんぶして、来ちゃった」
 来ちゃった、なんて軽々しく言うけれど、1年のときよりだいぶ背が高くなった僕をおぶるのはきっと大変だっただろう。
 狼狽して、僕はきょろきょろと周りを見回した。
 辰羅川くんも犬飼くんも御柳くんもいない、なんの変哲も無い、暗い朱色のシートが並ぶ見慣れた車内だった。
「……帰っちゃったの? あの人」
 やっとそこに考えが及んで、首を傾げる。うん、と司馬くんが頷いた。
 そっか、帰っちゃったんだ。
 僕の体を貸していたと言っても一瞬のことだったのに、なんだかとっても仲良くなったような気がしていたから、残念だった。話したいことや、聞きたいこと、たくさんあったのに。
「辰羅川くんを、助けてくれたんだね。そのために、あの人は、来てくれたんだね」
「うーん」
 司馬くんは、ちょっと唸った。訳を尋ねて、見つめる。
「そうじゃない、と、思う。ほんとうはね、ずっとね、いてね、くれた、んだと、おもう」
「え……」
「でも、あのとき、辰くんを、3人をね、たすけるためにね、頑張って、くれたんだと、思う。だから、みんなに、わかって、とまるにてつだってもらえて」
 かたんかたん……。電車が動くのにあわせて、さしこむ陽射しがゆらゆらゆれる。
「あのひとは、ずっと、辰くんたちの、そばに、いたんだよ、きっと。さっきみたいのとは、べつの、かたちで、守ってあげてたんだ」
 あのとき感じたやさしさみたいに、窓の形に降り注ぐ光はあたたかい色で、僕は司馬くんの話を聞きながらうとうとと目を閉じてしまう。ああ、そういえば、司馬くん言うとおりだ、あの人はいたんだ、沖くんが言っていたじゃないか……さっき、起きるまで見ていた夢に、もういちど沈みなおしながら。やさしいこえが、ふかいところから、滲む。

 ありがとうな、きっと、オレだけじゃあいつら、助けらんなかった。人間って、むつかしーんだな、あれが、あのことが、こんなことに繋がっちまうんだな。でもオレ、あいつ庇ったこと、後悔してねえんだ。そりゃ、野球できなくなったとか、白雪と喋れなくなったとか、あいつらの野球みてやれなくなったとか、色々あるけどさ、こーゆーこととかあるけどさ、でも、御柳が生きてて、良かったって思う。んで、あいつらがばらばらになんなくてよかった。まだまだ世話かけやがって、しょうがねえ弟子共だぜ……なーんてな。久々に、あいつらと喋れて、楽しかったぜ。ほんとうにさんきゅ。ん? んー、もうちょっと、見てるぜ。あいつらが、幸せになるとこ、ちゃんと見てるって事。