| ものすごーくいやなものを見た、と兎丸は思った。 子津の柄が悪い。ベンチに後ろ手をついて上体を逸らし、眇めた目で前を見ている。 なんの変哲も無い公園だ。その剣呑な視線からちょっと逸れたところで、噴水がわきあがっている。きらきらとしていてその様は平凡ではあるが美しいと言っても間違いではない。 なのに、見るからに子津の機嫌が悪すぎる。運悪くランニングでそこを通りがかってしまった兎丸は、誰かに助けを求めるべきか、己で声をかけるか心中巡らせた。 けれど、先に気付かれてしまう。驚いたような顔をして、ベンチから立ち上がり子津は走り寄ってきた。片手をあげて 「おい、兎丸!」 !? 思わず一歩退がる。 間違いなく、子津だ。青と白のバンダナに、鼻の上に散ったそばかす。真っ黒な瞳。薄水色のパーカに、ジーンズ。いつも兎丸くん、と呼ぶその声で。 気っ持ち悪ぅ! 青褪めている兎丸に頓着せず、子津はその両肩に手をおいて真剣な目をした。 反抗期? と声なき声で絶叫する。 「兎丸、兎丸だよな? あー、よかったマジ困ってたんだよ助かった!」 「ね、子津くん……? ど、どうしたの? 具合でも悪いの?」 「あ? あー」 気付いたように、子津は自分の体を見下ろした。……なんとなく、知っているような展開の前触れに思えた。 「猿野なんだよ、オレ!」 困った声で、どこをどうみても子津に見えるその物体が、そう言い放った。 とりあえず落ち着こうと、買ったココアを手に憂いた目でため息をついているだけなら、どう見ても子津だ。猿野や誰かのボケに困らされて疲れ果てたんだろうと見て取れる。でも 「あー……マジでありえねえほんとないからこれ何事? オレがあいつであいつがオレで?! もういいんだよ二度目かよマンネリにも程があんだよ! あああ、せめても一度凪さんだったら女体の神秘を解き明かすことも出来たのに……!」 今度こそオパオパに惑わされねえー! と叫んで、平和に日向ぼっこしていた鳩たちを散らす様を見ると、いま猿野の体に入っている(らしい)子津が心底気の毒だ。人が変わると人相まで変わるらしい。 鼻の下が伸縮自在な子津なぞレアだ。 「で、どーして兄ちゃん……じゃなかった、子津くんと連絡とってないの?」 擦れた子津が、ふんと鼻を鳴らした。 「こいつのケータイ壊れてんだよ。気付いたの、外出たあとでよ。家には何かしら誰かの番号あるだろうけど、戻って子津の振りしてそれ聞き出すのにも疲れたし……」 はあ、とため息。何度も思うが、その辺だけなら文句なしに子津だ。 「じゃあ、僕から兄ちゃんの携帯にかければいいってことだね?」 「そ。そーいうこと。あいつならうちにも慣れてるし、んな大変なことにはなってねえと思うけど……」 |
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