司馬の携帯には暗証番号照合によるロックがかかっていた。誕生日や西暦、背番号の組み合わせ、挙句の果てには春の身体検査に聞いたうろ覚えの身長体重なども入力してみるが全てがスカ。

 携帯を閉じて、司馬の顔で子津はため息をついた。

 なにしろロックがとれないことには子津自身の携帯に連絡することも出来ない。
 一体何が起こっているのだろう。
 夢かと何度目かに疑い、また洗面所に行って鏡に自らを映してみるが、やはりそこで呆然とした顔に手を当てているのは司馬だった。
 自分が司馬の顔をして、司馬の家に寝ていたところを見ると司馬はおそらくその逆なのではないだろうか。
 いったいどうしているだろう。物言わぬ自分を、家族が放っておくとも思えない。上手く偽れているだろうか? それとも、家族に事情がばれているだろうか。それだったら家族から電話が来てもいい。信じるかどうかは別の話だろうが、確認ぐらいはしてもいいだろう。
 何が起きているのか知りたい気持ちでじりじりしたが、どうも勝手に人のクローゼットを開けるのに気が引けた。
 子津の家は兄弟が多い分、プライバシーに対する意識が薄い。それだけに、他人のプライバシー意識がどうも測りがたかった。いくら緊急事態とはいえ、他人にクローゼットを開けられた司馬がどんな気持ちがするか皆目見当がつかなければ、着替える気にならない。
 さりとて寝巻きにで外に出るわけにもいかず、仕方なくベッドの上で座ったまま小さくなっている。
 どうも両親は出かけているようだった。1人暮らしだというのは聞いたことがないから、人の気配が家にない以上でかけているのだろう。仕事だろうか。
 なんにせよ、こうして昼までまんじりとしているというのに誰も起しにこないのが子津には不思議な感覚だった。
 誰か起こしに来たら、それに対するアクションで身の振り方を決めるということも考えていたのだが、それが無い以上全てが子津に任されている。
 仲が悪いということはもちろんないし、それなりの好意を抱いているが、何せ司馬だ。子津にはわからない部分が多すぎた。これが猿野か誰かなら、まだ上手くやれたかもしれない。
 無機質な部屋だった。全てが箪笥や棚に収納されて、むき出しのものが家具以外にない。それがまた子津の環境とは大きく違っていて、夢と見まごうのに拍車をかけた。
 けれど何度洗面所に行っても、青い髪は黒に染まらず、白すぎる肌が焼けることもない。
 聞きなれないトーンのため息が、また部屋の中に満ちる。