こんな奇怪な話だった。人がいるところよりいないところがいい。
 一頻りのパニックを収め、猿野の顔をした司馬と犬飼は犬飼の家に寄ってトリアエズを置いてきた後、子津の顔した猿野と兎丸がいるらしい公園に向けて歩みを進めた。
 犬飼が先を行き、猿野が司馬の動きでその後ろをとぼとぼついてくる。振り向けば言葉を発しないまま意を尋ねるために、首を傾げて。
「……」
 その様に目を奪われ思わず浮かんできた言葉を、犬飼は意識の表面に浮かぶ前に沈めなおした。言っても良かった、それは事実だった。
 しかし、普段から邪気なく微笑む司馬にそれを思うのは……あまりにも、自分が冷酷な人間のように思えた。
 せめて、と足取りを緩め隣に並ぶ。不思議そうに、猿野の顔が犬飼を見る。そしてまた微笑んだ。目を細めて、口に緩やかに弧を描かせて、にっこりと。
 今度は、自制が間に合わなかった。
 ……気色悪ぃ。
 大人しい猿野、なぞ黒人の白雪姫ぐらいの矛盾だ。とうていありえたものではない。
 かと言って、微笑むな、大人しくするな、ともいえない。この状況も司馬が悪いわけではないのだ。そのくらいは心得ている。
 けれど耐え切れない。
 なので、心の中で思うぐらいは、自分に許すことにした。
 状態がなんとなく把握できて、ほっとしたのだろうか。普段は怒鳴るや爆笑やまくしたてるが主な口から、ゆったりとした英語のメロディが流れ出している。猿野の声でありながら、穏やかな、優しみを帯びた雰囲気をまとって、それは年明けの空気に溶け出していく。
 ああ、ああ、ああ、気色悪ぃ! 気温が関係なしに、寒い寒すぎる!
 いや耐えられない、無理だ。犬飼は再び煩悶する。

 困ったことに遭遇したら、どうすればいいか?

 同い年の友人に甘え続けてきた男の考えることは、ひとつだった。
 自らの携帯を取り出す。
 困ったらとりあえず、奴に聞けばいい。人生万事それで上手くいってきた。
 呼び出し音、9回。不審に思って眉間に皺を寄せたころぷん、と線が繋がった。
「辰?」
「あ、い、犬飼くんですか? 申し訳ありません、こちらただいま立て込んでおりまして……」
 ものすごく生真面目そうな御柳の声が、そういった。