白の中に探し続ける
金色の目
金の髪が視界から消え、何もないところに足を踏み出し続けてずいぶんになる。
初めは物珍しく恐ろしく辺りを見回していたけれど厭きてきた。あの人の羽を捜してあげようと思うけれど、こんなに白かったら遠くにありでもしたらわからないんじゃないだろうか、そんな心配をする余裕が生まれる。
けれど、子津は小さな影を見つけることができた。
しかしとてそれは小さいのではなく果てしなく遠くにあるのだとわかる。もしかしたら砂漠の蜃気楼のように幻に向かって歩き続けているのかもしれないとぞっとした。
けれど歩みを止めることはできなかった。そして幸いなことに影に着実に近づくことは出来ている。
そう確信できたのは、やはりそれも人影だということがわかったからだ。背の高い誰かが、すっくと立っている。
目をこらせば、やはり立派な翼を認めることが出来た。けれど白くてやっぱりよく見えない。
どうしてずっと影のように見えるのかというとその人の髪色にあるようだ。白い服の上に銀の頭が乗っていては、見つけられた自分に拍手したいほどである。
「こんばんは」
相手は背中を向けていてなんと声をかけたらいいか分からなかったので、子津はそう言った。
振り返った、肌の色は黒い。まるで土に水を溶かし込んだようだ。こちらを見据える視線はするどく、子津はたじろいだ。
「誰だ」
「誰だ、って…」
答えられない自分に、子津は驚いた。子津、だと自分の名はわかっている。しかし誰、と問われては何もいえない。
確かに自分は子津という名を持っているがそれは自身ではないからだ。
物事は全て由来と結果からなる。結果だけ答えるのはナンセンスだ。けれど子津は己が己たる言葉を正確に放つことができなかった。
「ふん」
それほど興味はもたれていないようだ。鼻を鳴らして、顔をそむけられる。
そこで漸く、子津はその翼が完全ではなく右の羽根の半分が欠けていることに気づいた。全体の翼はとても大きくて立派だ。けれどあの様子では、もう一枚羽でもつけなければ高く飛ぶことは出来ても長く飛ぶことは出来ないだろう。
それを知ってか知らずか、翼は高みだけを求めるように息づき、重力から放たれようともがいている。
「オレは誰よりも高く飛んでやる。何よりも、だ。そのためには荷物なんかいらない」
その言葉が示すように傍には小さな写真が破り捨てられていた。呻く翼の風圧で、欠片が少しずつ散っていく。
4人か3人、映っていたのではないだろうか。足元まで飛ばされてきた破片の中で、子供が幸せそうに笑っていた。
「いらないんだ」
言葉は、自身に言い聞かせているようでもあった。長く飛べないことを、指摘しようか子津は迷ったけれど、言わなかった。
知っているのかもしれない。
「お前はどこに行く?」
言葉に射抜かれ、動くための何かを壊されてしまったかのように子津は金の瞳を見つめた。
しかしその主は答えられない子津を知っていたのか、一拍もおかず、そのまま立ち去ってしまう。
飛ばずに、歩いて。
そうして、子津が見つけたときと同じように小さな影になり、やがて白の中へ消えてしまう。
それを見送り、
「どこにもいけない」
自嘲する。
この頼りない羽では。