「本当に、乗っていかなくていいのかい?」
「そんなに遠くないっすから」
「お疲れっしたー」
「そう……、お疲れ様。また明日ね」
 車の窓の中から尋ねていた牛尾が手を振って、黒塗りの車が走り去っていく。
 校門から家へ向かう道の上、西の空が赤く染まっていた。暗闇に映えてそれは明るく、火事でも起きているのかと見紛う程に。
 猿野が鞄を持つ手を後頭部にやって
「さて、オレらも帰っか」
「っすね」
 十二支の門を出るとすぐに、閑静な住宅街が広がっている。同じような造りの家々が塀の中から覗く細い道を並んで歩いた。
「あーっ、にしてももったいねえ。折角凪さんとピンクドリームに浸る日が来ると思ったのによー」
「そんなこと言って。そうやって鳥居さんと両思いになったって、嬉しいんすか?」
「……それとこれとは」
「同じ話っすよ」
「ちぇ、ネズッチュー意地悪ぃ」
 カン、と猿野の足が蹴った石が塀に当たり、子津の爪先の傍へ跳ね返った。心持大またに、それを子津が避ける。
「あ」
 と猿野が声を上げた。
「何すか?」
「ネズッチュー、今日うち泊まりに来ねえ?」
 猿野の母が、遠くまでの仕入れで家を空けることは珍しくない。
「沢松くん、いないんすか?」
「そ。なんか報道部の先輩ンとこ行って、徹夜で現像だと」
「ああ、校内新聞の発表、もうすぐっすもんね」
「ぜんぜん終わってねえから、こっから寝る暇ねえってよあいつら。誰も読んでねえのになー」
「結構読んでる人いるみたいっすよ。校内新聞にしては」
「へ? そうなんか。オレ活字見るだけで眠くなっからなー」
「僕も似たようなもんすけどね」
 苦笑いしながら歩く道が、右に突き出してTの字を描く。猿野が真っ直ぐに進み、子津は家へ向かうために曲がる角だ。隣を歩いていた猿野は、目も合わせずに身体を90度回転させて歩き続ける。
「さ、猿野くん?」
 狼狽して立ち止まる子津を不思議そうに猿野が振り返った。
「だってお前、家に泊まりにくんなら荷物必要だろ?」
「泊まるの、決定なんすね……」
 まだ返事してなかったのに、とぼやく子津を無視して猿野が歩みを進める。ひとつため息を零し、そのあとを小走りに追った。