食事が終わり、猿野がぞんざいな後片付けを終えると、子津が猿野の雑誌を床においたまま、片手でぱらぱらと捲っていた。片膝を立てて、壁に寄りかかっている。
 ゲームの電源を入れようとしていた手が、それを見て止まった。
 子津の足元に寝そべる。
 驚いた目が向けられた。
「猿野くん?」
「子津、足、足。伸ばせ」
 軽い困惑を浮かべた表情で、子津が折り立てていた膝を伸ばす。揃えられた腿に頭を乗せた。「えっ」と、声が上から降る。
「まくら」
「さ、猿野くん?」
 頬をジーンズに擦り付ける。子津の匂いだ、と思う。嗅覚で温度を感じることが出来るとは思えないけれど、暖かい匂いだった。
 子津が泊まりにくることは、よくあることだ。それでもこんなことはしたことがない。沢松に、「スキンシップ好きだ、お前は」などと指摘されたことがあったけれど、ああ、こういうところかと初めて頷く。
 人の体温が傍にあることが心地よいと思う。狼狽したような子津の態度が、なのに受け入れてくれてるようで安心する。どうしてだろう、この瞬間が、とても貴重でいいものに思える。
「眠い、んすか?」
「んー」
 子津は困っている。
 本当は嫌がっているかもしれないとかすかに思ったのに、おずおずと手のひらが近づいてくるのが、目を瞑っているのにわかった。ふわりと、額を覆う。ぎこちなく生え際をなで上げられた。
 何度も、何度も。子津もスキンシップ好きなのだろうか。だったら、自分たちは良い相性なのかもしれない。野球で荒れた掌の、ざらりとした感触が優しい。
 子津から離れた方にだらりと伸ばした手だけが寒かった。夏なのに。寝返りをうち、子津の方を向く。オレンジのTシャツの腹が間近にあった。手を回し距離を詰める。腿は枕で胴は抱き枕で子津枕であったかい。
 額が隠れると、子津の手は頭に添えられた。離れないで済むと安心した。どこへ行くわけでもないし、猿野がどこかへ行きたくなればその手は障害とは呼べないことはわかっているのに。
「お前さ、ずっとここにいろよ」
 この状態が心地よいことを伝えたかったのに言葉は難しく捻じ曲がって、けれど言い直すのは、あまりにも今にそぐわなかった。猿野は黙って、腕にぎゅうと力を込める。
 頭に添えられた指が赤茶の髪の中に軽く曲げられて、掴むように、捕まえるように。