「自白剤の一種?」
 物騒な響きに、剣呑に聞き返す。
「……と、言っていいのかな……。僕も自白剤の仕組みについてはよくわからないから」
 考え込むように軽く眉間に皺を寄せ、そう、牛尾はぼやいた。
「効果としてはそれに近いんだ。ただ、近いだけで同じかどうかはわからない。簡単に言うとね」
 知り合いの、医学の研究家からの冗談交じりの贈り物だと言う。つまり、冗談ほどの効果しかない。
「人間って、自分に関わる人を見ると無意識のうちにその人との関わりをイメージしてるんだ。それによって、接し方を自分にプログラミングしている。その、プログラミングする部分に即効性で影響する薬なんだ」
「つッまり、どういうことなんだよ?」
「……うーん、簡単に言うと、その人……飲んでから初めて見た人に向けて、ちょっとだけ素直になる。好意的にね。その人が好きでしてしまう行いにストップがきかなくなるというか」
 わかりにくい流れの言葉を、どうにか汲み取って獅子川は確認に口を開く。
「相手の迷惑とか考えねえで、ベタつくッてことかッ?」
「そう。だから、本当に嫌いな、少しも好意のない相手に使われてもどうにもならないんだよね。表現の問題だから。で、その作用だけなら仲良くなる良い薬なんだけど、ちょっと工夫した使い方があってね」
 良い薬、というところに大分疑念が浮かんだが、言いにくそうにしている牛尾を遮るのが気が引けた。というか、聞いておかねば不都合が生じる気がする。
 困ったように、視線を逸らしながら
「……ラヴェリング効果、って知ってるかい?」
 また、関係がなさそうでわかりにくいことを言う。
「なッんだ、そりゃ」
「精神作用のひとつでね、『恋愛的にこの人を好きだ』と認識することで、さらにそこから好意がどんどん膨らんでいくことなんだけれど」
「そッれが?」
「つまり、これを飲ませた人に、『それは惚れ薬だ』というだろう? そうなると、そのラヴェリング効果……この場合はプラセボ効果とも呼べるのかな……が発生する場合がある。そして薬の本来の効果で好意は素直に出るから……」
 小難しい説明をなんとか噛み砕いて飲み込んだ獅子川が、その言葉尻を攫う。
「そのなんたら効果で出来上がッた恋愛感情ッてのが、全部表に出ちまうッてことか」
「正解。まさしく、惚れ薬の効果になるんだ」
 世の中には色んなことを考える人間がいるものだ。青地に金の文様が刻まれた天井を仰いで、改めて獅子川は世界を広さを認識した。こんなことで認識したくなかった。
「……あ?」
 そうなると。
 ふと思い当たったことに立ち上がり、机を迂回して牛尾の傍に立つ。不思議そうな目で見上げられる。白い頬を思いっきり摘んだ。
「てッめええ! ンな薬なら、猿野に惚れ薬だッとか言う必要はなかッただろ! なのに言いやがッたな?!」
「ひはひ、ひはひほ、ひひはわふん」
「いッたいじゃねえよ、このバカ! オレ様の納ッ得行くように、きッちんと説明しッやがれ!」
 千切れても不思議がないほどの力で抓ってから手を離す。赤くなった両頬をさすりながら牛尾が上目遣いに
「……面白そうだったから」
 骨と骨のぶつかる音が部屋に響いた。殴った拳そのままに、胸ぐらを掴みあげる。
「なッに考えてんだーッ!」
 怒声は屋敷中に響いた。