「ねづ、くん……」
 驚きに目を瞠る牛尾と、振り返る獅子川に子津が苦笑する。
「ごめんなさいっす、獅子川先輩の様子が変だったから、おっかけてきちゃって」
 聞いちゃったっす、と、続ける。そして、右手を出した。
「……あの、薬の解毒剤、とか、ある……すよね? 猿野くんに、飲ませてあげて、いいっすか?」
 牛尾に向かって。
 それをしばらく見つめて、牛尾はゆっくりとジャージのポケットに手をやり、平たい円の本体に金の蓋がついた小瓶を取り出して子津の手に預けた。
 眉間に皺を寄せて、眉尻を下げて、微笑みかける。
「……ごめんね、獅子川くんの言う通り、僕はきっと、余計なことをしたね」
 俯く顔を獅子川が唇をきつく噛み締める。
 黙って、子津は首を振った。
「……ゆめがみれて、うれしかったのは、確かっすから」
 そう、手の中の小瓶を握り締める。
「でもこれ以上は、期待して、苦しくなっちゃいそうなんす」
「……」
 返る言葉はなかった。
 一礼して、ドアノブに手をかける子津を、獅子川が呼び止めた。
「……解ッ毒剤じゃねえ」
 言葉の先を待って、不思議そうな目で、子津が獅子川を見る。
「中和剤だ、それは。あれは、どッくなんかじゃねえ」
「そう……っすか」
 いつものように困った笑顔を浮かべながら、子津は部室を出て行った。
 きい、と2人の前でドアが閉まる。