アリス、アリス!
ツッコミ鼠の言うことにゃ
ようやく、足が着いたのは、ふんわりとした畳でした。
目の前のキセルからほわほわと、白い煙が抜けていきます。
見回せば、十畳そこらのそう広くもない部屋でした。
ただ、襖には豪奢な色をたくさん使って鶴や桃が描かれています。細い糸を何本も、何本もつなげたような絵です。鶴が桃の枝から実をついばむ様子が、僕の目の前に三面に渡って描かれていました。残る、背中にしてしまった一面は障子です。日に、亀の模様が透けていました。
片膝を立てて、襖の模様に負けない鮮やかな赤い着物を肩にかけた人の口から、キセルと似た煙がぷうわり浮かびます。
天井に穴はなく、煙は外へ逃げることなく、薄く部屋の中へ四散しました。
「誕生日、おめでとーう!」
煙管を振り上げて、赤い着物の人はそういいました。
「僕、誕生日じゃないんだけど」
「みんな、毎日誕生日なんすよ」
赤い裾から、鼠さんが出てきて言いました。
「だってそれじゃあ、早く大人になっちゃうじゃないか」
「大人にならなかったら、困るじゃないっすか」
「んま、オレなんか一年に一回しか誕生日ねえけどな」
「少なすぎっすよ!」
鼠さんが驚きます。僕だってびっくりです。びっくりしている僕に気付かないで鼠さんは
「さあ、君もお祝いをしましょうっす」
「だめだよ、僕、人を探してるんだ」
「人ぉ?」
また、ぷわりと煙が上がります。ドーナツの形です。
「みかどさんを探してるの」
「知ってっか? ネズッチュー」
「さあ……」
どうも埒が明きません。僕は踵を返し、障子から出ることにしました。
「待てって」
いつの間に伸びたのでしょう。さっきまで30cmぐらいしかなかった煙管が、1メートルにも伸びて僕の肩を叩きました。振り返ると、
「これやるよ、きっとどっかで役に立つだろ」
「みんな良い人っすけど、いたずら好きの人もいるから、気をつけた方がいいっすよ」
さしだされた煙管は、たばこの甘い匂いと、木のにおいがしました。中には何も入っていません。
「ありがとう」
二人は、笑って手を振ってくれました。