アリス、アリス!

たまごふたごボードゲーム? inニードル!

 障子を出ると、縁側でした。
 その向こうには、広々と、うっそうと森が広がっています。人があまり通らないのかもしれません。苔が一面を覆っていて、どこもかしこも深緑でした。針葉樹ばかりで、尖った葉が、ひらひらと落ちているさまは、なんだか襲われるようで怖いです。
 これといって道はなく、意図があるようなないような間隔で、木はそびえています。どこへ行けばいいのでしょう。
 猫さんは不思議の国のどこへ行けとは教えてくれませんでした。やっぱり、二人に訊いてみようと思って振り返っても、縁側を飛び降りてから一歩も動いていないのに、もうそこには森しかありません。
 仕方がないので、歩き出すことにしました。いくら歩いても景色は変わらず、とても心細いです。僕の前には青い鳥も飛んでいませんし、光る小石も落ちていないのですから。
 さらさらと、雨のように落ちてくる松の葉の、ちりちりとした痛みに眉を顰めていると、こつん、と頭に何か落ちてきました。白く、まるい石です。
「あーっ、悪ぃ、ピーッとしてねえか?」
「まったく、さすが思慮の足りない愚劣なる君らしい、妖精にも賛美されたわたしのきらびやかな言葉も出なくなるような振る舞いだね。星を落としたような、美しい碁石を、なんら罪のない清らかな通行人にぶつけるとは、なんともはや」
 木の上に、誰かいるらしいのですが、何しろ松葉が降ってくるものですから顔を上げることは出来ません。
 どうしようかと、腕で顔を庇いながら立ち止まっていると、いっそう葉が落ちてきました。どさり、と目の前に、その誰かたちが降りてきたようです。
「なんだ、まだピーッなお子様じゃねえか」
「何かお困りのようだが、この崇高にして尊く、美麗なるこの緋慈華汰にお手伝いできることはあるかな?」
「泥片だろ」
 ゴギイン……ッとひどい音がしました。
 目が開けられないこともないのですが、針が目に入りかけた振りをしてわざと顔を逸らしました。
「僕……、人を探してるんだけど」
「探し人かい? 君のようなちいさい人が、孤独という自由を得つつも心細さの中漂う迷子とは気の毒に。良かったら、君の硝子細工のように、七色にきらめく記憶の美しき鎖の中からその人の名前を、この天使のように麗しく、悪魔のごとく賢い緋慈華汰に教えてはもらえないだろうか」
「みかどさんって人。絵本を読んでいてくれたのに、つれてかれちゃったんだ。食べられてしまうから、早く助けないと」
「まった、ピーッと物騒な話だな」
 不思議な機械音の混じる声の人が、起き上がる気配がします。そうこうしているうちに、また針葉がひどくなって、目が開けられなくなってしまいました。
 ぽんぽんと交わされる口調だけ聞いていると、なんだかどっちがどっちだかわからなくなってしまいます。まるで双子のようです。
「痛くないの?」
「ああ、さっきピーッと痛がったばかりだからな」
「二度も痛がるとは、清水の如くさらさらと流れる時間への冒涜だからね」
 僕はちいさいので、言っていることがよくわかりませんでした。
 それより、みかどさんはどこに行ってしまったのでしょう?
「みかど、ねえ……」
「知らないの?」
 緋慈華汰さんがんんと不安げに唸るので、僕も不安になりました。どこへ行ったらいいのか、もうわからないのです。このままならみかどさんが食べられてしまう前に、僕が森のお化けに食べられてしまうかもしれません。
「そのひと自身は知らないけれど、どこに行ったかならわかるかもしれないよ」
 一生懸命思い出してくれているのか、緋慈華汰さんの言葉がとても簡単になってしまいました。
「ほんとう?」
「ハートの王の周りに、何かヒントがあるだろう。何せここの全ては彼に起因するのだから」
 やっぱり、よくわかりませんでした。けれどそのハートの王様というのは、みかどさんを食べてしまう心臓と何かかかわりがあるかもしれません。それどころか、本人かもしれないのです。
 胸に手を当てると、とくんとくん、音がしました。
「おうさまは、どこにいるの?」
「ここをピーッとまっすぐ行け」
「とても、遠いところに彼はいるんだ。砂漠を越えて、関所を抜けて、まだまだ歩く。私たちが、ついていってあげられればいいのだけれど」
「ううん、僕一人で大丈夫だよ」
「あと、ピーッと王を起こすんじゃねえぞ、絶対な」
「起さず、どうやって訊くの?」
「訊くんじゃないんだ、その周りで探すんだよ。くれぐれも、起さないように、気をつけて。彼はこの国の心臓なのだから」

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