アリス、アリス!

砂漠に咲いた梔子たち

 息が切れました。靴の中はじゃりじゃりです。みかどさんと会えるので着ていた余所行きの服も、砂だらけになってしまいました。もう、いくつ丘を越えたことでしょう。
 世界は相変わらず青く、ひたひたと歌うようでした。月は黙ったままです。地上には紫色の丸がありました。火が、焚かれているのです。
 ここで暮らしている人たちなのでしょうか。砂を避ける、大きな布を被った人影が、ふたつ焚き火を囲んでいます。
 さそりさんが近づくと、口元まで布で隠した人が、手をうつくしく動かしました。何かを伝えようとしていることはわかるのですが、どう言っているのか、僕にはわかりません。
「こいつが、追われてるんだ。砂漠の端まで送ってやる」
 さそりさんにはわかるようです。返答から察するに、僕のことを聞かれたらしいです。
 さそりさんとお話していた人の後ろで、ゆうらりと影が立ちました。びっくりして、怖いようにも思えましたが、そんなことはないとすぐわかりました。この砂漠のように青い、色硝子が目を覆っています。優しげに微笑む口元は、柵の中で穏やかに草を食む、お馬さんたちを思い出させました。
(僕が、送ろうか)
「お前が?」
 さそりさんはびっくりしたようです。伺うように、僕を見ました。
「僕は、いいよ」
 盛んに後ろを見やって、さそりさんが考え込みます。僕の方をまた見て、まあ僕がいいなら、と結論が出たようでした。
「じゃあ、頼んだぞ、司馬」
(うん、大丈夫だよ)
 見送りに手を振ってくれた、顔を布で隠した人が焚き火の中から小枝を一つくれました。
 
 僕はその司馬くんと、砂漠を越えることになりました。青くて綺麗な、おともだちでした。物を言わない、静かなおともだちでした。