アリス、アリス!

黒紳士が申します。

「ありがとうございます」と、取り残されて泣きながら深く頭を下げる人は、猫さんの涙を僕らにくれました。手渡されるときに触れた体温で、どうしてこんなにこの人が薄いのかわかりました。この人の身体は、いま鎧になってしまっているのです。そうです、あの、砂漠で出会ったさそりさんの。さそりさんのやわらかい中身を守る、鎧に。それで心だけ猫さんの傍にいたので、こんなに薄くて、こんなに傍で泣いていても猫さんが気付かないほどなのです。歩き出そうとする僕らを、その人は引き止めました。
「あ……、あの人は嘘がお好きなんです。どうか、気を落とされないよう」
 つまり、みかどさんは、無事なのです。食べられていないのです。まだ大丈夫なのです。
「う、うん、ありがとう!」
 前に進みたくて、仕方なくなった僕に、やさしげに手を振ってくれました。
 急がなくてはなりません。



 きのこの森は、長く続きます。湿った匂いがあちらこちらからして、服にも移ってしまいそうです。じめじめとした、陰気な森でした。僕らは手を繋いで、土を踏んでいます。さくさくとも、さらさらとも音の鳴らない地面を踏んで、歩いています。
(……すごいね)
「何が?」
(みやなぎくんは、ながいながい間、とても辛かったんだ。たつらがわくんも一緒にくるしくて、こころがたくさんすれ違ってしまって、犬飼くんは、逃げ出してしまったんだ。とても、とても辛かったんだ)
 うつむきました。そんなつもりじゃ、なかったのです。余剰に褒められるのはいやなのです。ぼくは、自分の言いたいことを言って、したいことをしただけなのですから。誰のことを考えたわけでもないのです。
「あと、どのくらいで、次の場所にいけるかな?」
 話題を逸らすための言葉にすっと、白い指が、前を指しました。
 大きくうつくしい門が、そびえています。

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