アリス、アリス!
こわ〜いナイトにご用心?
「びみょ〜に、こんにちは〜」
赤銅の兜、赤黒い鎧に赤い意匠をあしらった鞘。ナイトがにこにこ笑います。晴れ渡る真っ青な空の下、薔薇の蔓が象られた門を背にして、ゆったり手を振ってくれました。大きく、力強い手です。
僕とは大分目線が違うので、しゃがんでくれました。
「この先がどこか、びみょ〜に知ってるかな〜?」
「知ってるよ、ハートの王様のおうちに続いているんでしょう?」
「とても、びみょ〜に危ないところだよ。それでも行くの?」
「助けに行かなきゃいけない人が、いるんだ。おじちゃん、通してくれる?」
にっこりと、ナイトが笑います。
「おじさんじゃないよ」
「僕、急いでるんだけど」
「人の話をびみょ〜に聞かない子だね〜」
悩むそぶりで、ナイトは顎に手をあて宙を見上げます。とんとんと、立ち上がった踵が石畳を叩きました。
「君さ、どうして俺がここにいるか、びみょ〜にわかる?」
「門を、守るためでしょう?」
「びみょ〜に、せ〜かい。正確には、門の向こうを守るため、だね」
「それが?」
銀色に輝く刃が、すらり、鼻先へ突きつけられました。
「君は誰かを助けに向こう側に行くという。それは、門の向こうを乱すことだね。ここを通すわけにはいかないな」
鈍い空気を、無理やり押し付けられたようです。重い酸素を飲み込みました。穏やかに垂れた瞳の中に、切っ先と同じ光が宿っています。
「帰ったほうがいい。これは忠告じゃない、命令だよ。君たちより、俺の方が強いからね。半端な覚悟で、ここに向かわれちゃ困るんだ」
「はんぱな覚悟なんかじゃない。みかどさんをたすけるんだ」
「それを決めるのは、君じゃない。さあ、引き返すんだ」
「帰らない」
「死ぬのが怖くないの?」
「帰らない」
何を、考えていたわけでもありませんでした。実のところ、半分も話を聞いていなかったのです。ただ助けに行かなくてはならないと、ぐるぐる頭の中に渦巻いていて、それがナイトの言葉に反射しただけのことなのです。
「死にたいんだね」
どうしたらいいのかなんて、知りませんでした。
かちり、音が、しました。
かちかちかち、音がします。
「それは?」
剣を僕の眉間に向けたままナイトが、呟くように尋ねました。振り向くと、司馬くんが広げた手の中でいびつな時計が鳴っていました。碁石を面にした、小枝とパイプを針にした、砂で描かれた文字盤を涙のガラスで覆った、小さな小さな時計です。
掌の上で、しずしずと時を刻む機械を差し出され、ナイトは感嘆の息をつきました。怖い光が、きらきらした翠の中で薄れていきます。
「なるほど……びみょ〜に、時計うさぎなんだね〜君は」
刃が鞘に隠れまました。聞き返す間もなく、
「遅いじゃないか。いらっしゃい、心臓の御許へ」
うやうやしく頭を下げたナイトの後ろで、音も立てず門が開きました。